治療方針決定のため、抗PD-1抗体の有効性が予測できるバイオマーカーが必要
近畿大学は4月2日、非小細胞肺がんに対するオプジーボ(一般名:ニボルマブ)をはじめとする抗PD-1抗体の効果を、血液中の「免疫チェックポイント関連因子」から予測できる可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(腫瘍内科部門)の林秀敏主任教授、同大学病院がんセンターの中川和彦特任教授、京都大学大学院医学研究科がん免疫PDT研究講座の茶本健司特定教授、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センター(CCII)の本庶佑センター長(兼、京都大学高等研究院特別教授)らの研究グループが、シスメックス株式会社との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されている。
2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した、本庶佑氏による「PD-1」という分子の発見で、外科手術や放射線治療法、抗がん剤などの化学療法が主流だったがん治療が大きく革新された。PD-1は、免疫細胞の表面に存在する「免疫チェックポイント」と呼ばれるタンパク質の1つで、ここにがん細胞が作るPD-L1というタンパク質が結合すると、免疫が抑制されてがん細胞が増殖する。PD-1とPD-L1の結合を阻害する「抗PD-1抗体」は、がん細胞に対する免疫反応を亢進させ、抗腫瘍効果を示すことから、さまざまながんの治療薬として実用化されており、代表的な治療薬としてニボルマブが広く知られている。
こうした抗PD-1抗体は効果が非常に高い一方、長期的に有効性が得られる患者の割合は約10~20%であるため、どのような患者に抗PD-1抗体が有効かを予測することが、治療方針を決定するうえで重要だ。腫瘍組織を用いて抗PD-1抗体の有効性を予測する手法はあるものの、精度が十分でなく、また、腫瘍組織からリアルタイムに免疫状態を把握することはできないため、血液を用いて患者の免疫状況を予測できるバイオマーカーが求められている。
血漿中PD-L1/PD-1/CTLA-4測定で効果予測できる可能性、T細胞疲弊度合いが関連
研究グループは、2015年12月から、肺がんの8~9割を占める非小細胞肺がんのうち進行性の患者を対象として、抗PD-1抗体のバイオマーカーを探索する医師主導治験を実施。50例の進行性非小細胞肺がん患者に対してニボルマブによる治療を行い、治療前の血液を採取した。CCIIとシスメックスは、これまでに共同開発で可溶性免疫チェックポイント関連因子(PD-L1、PD-1、CTLA-4)を精密に測定する方法を開発しており、採取した血液を用いて、血球の遺伝子解析と、血漿中の可溶性免疫チェックポイント関連因子の測定等を行った。その結果、血漿中のPD-L1とCTLA-4の濃度を確認することで、抗PD-1抗体の有効性を予測できる可能性が示唆された。
さらに、免疫細胞の一つで、がん細胞を攻撃するT細胞の遺伝子発現解析を行ったところ、免疫チェックポイント関連因子の濃度とT細胞の疲弊度合いが関連していることも明らかになった。「本研究は、今後、非小細胞肺がんの治療方針を検討する際に役立つものと期待される」と、研究グループは述べている。
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・近畿大学 プレスリリース