不安障害に対する既存薬に課題、新薬開発が期待される
岡山理科大学は3月21日、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が不安行動を起こすメカニズムを、モデルマウスを用いた研究により解明したと発表した。この研究は、同大理学部臨床生命科学科の橋川成美准教授、橋川直也准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
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不安は誰もが経験する自然な感情であるが、不安が過度になり、日常生活に支障をきたすほどになると不安障害と呼ばれる状態になる。不安障害に至るきっかけは人によってさまざまであり、環境・遺伝・社会的要因など複数の原因が絡み合っている。不安障害に対する薬剤として、ベンゾジアゼピン系が広く使用されており、多くの利点の一方で依存性や離脱症状などの問題もあり、新たな創薬の開発が望まれている。
CGRP投与マウスで不安様行動、そのメカニズムは不明だった
CGRPは知覚神経に含まれる神経伝達物質であり、痛みを感じる時に遊離され、強力な血管拡張作用を示すことが知られている。マウスに投与すると不安様行動を起こすことが知られていたが、そのメカニズムについては明らかになっていなかった。
CGRP<リン酸化HP1γ↑<KLF11遺伝子ON<MAOB↑<ドパミン↓<不安
研究グループはCGRPがどのようにして不安を引き起こすかを明らかにするため、CGRPを投与し、不安様状態を引き起こしたマウスの脳海馬における遺伝子の変化を観察した。その結果、CGRP投与により、不安様行動が引き起こされ、海馬のドパミン量が減少していることがわかった。ドパミン合成酵素、代謝酵素の発現量を調べたところ、ドパミン代謝酵素のMAOBが有意に増加していることが明らかになった。
CGRPがドパミン代謝酵素を増加させるメカニズムにMAOBとの関連が知られているKLF11が関与しているのではないかと研究グループは考えた。予想通りCGRP投与によりKLF11が発現上昇していることがわかった。次に、KLF11の発現調節に関わるヘテロクロマチンプロテイン1γ(HP1γ)に着目した。HP1はメチル化ヒストンH3リジン9に結合し、クロマチンを凝集させて遺伝子のサイレンシング(遺伝子をオフ)を促進すること、リン酸化されるとその結合が離れ、凝集がほどけることが報告されていた。そこでCGRP投与マウスの脳海馬を調べると、リン酸化HP1γが増加し、KLF11エンハンサー領域のHP1γ量とメチル化ヒストンH3リジン9量が減少し、クロマチンの凝集がほどけてKLF11の転写を活性化させることが明らかとなった。
さらに、CGRPによる不安様行動はMAOB阻害薬やMAOB siRNAによるノックダウンにおいても抑制されることが明らかとなった。
CGRPが新たな抗不安薬の治療ターゲットとなる可能性
以上の結果から、CGRPが不安様行動を誘発する過程において、細胞内情報伝達がエピジェネティクスによって制御されることが明らかになった。これは、CGRPが新たな抗不安薬の治療ターゲットになり得ることを示唆している。「この成果は、CGRPが介在する多くの病態の発症機構の一端を解明しただけでなく、不安障害の理解を深め、新たな抗不安薬の開発や治療法の試験に役立つ可能性が期待される」と、研究グループは述べている。
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