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多種の精神・神経疾患に共通して「脳の乳酸増加/pH低下」の可能性-藤田医科大ほか

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2024年04月01日 AM09:10

脳の代謝異常と精神・神経疾患の関係、病態によるのか薬などによるのかは不明

藤田医科大学は3月26日、、統合失調症、、うつ病、アルツハイマー病などの精神・神経疾患モデルを含む、109種類のモデル動物を対象に大規模な脳の代謝解析を実施し、脳のpHおよび乳酸量が多くの疾患モデル動物で共通して変化することが確認されたと発表した。この研究は、同大宮川剛教授、萩原英雄講師、茨城大学農学部の豊田淳教授、世界7か国の105の研究室合計131人の研究者が参加した研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳活動のエネルギー源として主にグルコースが利用される。これまでの研究から、統合失調症や双極性障害などの精神・神経疾患の患者では、グルコースの分解によりエネルギーを産生する過程(代謝)に異常があることが示唆されている。これらの疾患では、グルコースが代謝されてできる酸性の代謝物である乳酸が増加し、それに伴い脳のpHが低下すると考えられている。

しかし、これらの脳内の変化についてはいくつかの論争がある。すなわち、これらの変化は、疾患そのものに由来する病態に関連した現象なのか、あるいは、疾患そのものからではなく、抗精神病薬の服用など二次的な要因(混交要因)から生じた見かけ上の現象なのか、という議論である。ヒト死後脳標本を用いた研究においては、このような要因を避けることは非常に困難である。そこで研究グループは、モデル動物の活用は、混交要因となり得る各種要因を厳密に制御した状態で検証することができるため、混交要因に関わる論争を理解するための適切な代替手段であると考えた。

研究グループは以前、統合失調症/発達障害、双極性障害、自閉症のマウスモデル5種類に共通して、脳のpHが低下し乳酸濃度が増加していることを見出し、これらの変化は疾患の病態に関連した現象であると提唱した。しかし、その他の精神・神経疾患の動物モデルにおける脳のpHと乳酸についての研究はまだ限定的であり、このような脳内の変化が一般性のある現象なのかは不明だった。さらに、脳のpHおよび乳酸量の変化がどのような行動異常と関連しているのかも明確ではなかった。

多様なモデル動物サンプルを収集、脳のpH・乳酸量の変化が共通の特徴であると判明

精神・神経疾患モデル動物は世界中に多種多様なものが存在する。研究グループは、遺伝子改変やストレス負荷などを施した109種類の動物モデル、合計2,294匹のマウス、ラット、ヒヨコの全脳サンプルを収集し、pHおよび乳酸量を測定した。この包括的な解析により、疾患間で共通する現象として、109種類のモデル動物の約30%で脳のpHおよび乳酸量に有意な変化が見られた。これらの大部分では、pHが低下し乳酸量が増加していた。これは多くの疾患動物モデルで共通して脳のエネルギー代謝の異常が生じていることを示唆している。

統合失調症/発達障害や双極性障害、自閉症のモデルに加えて、うつ病、てんかん、アルツハイマー病のモデルなど、多様な疾患モデル動物において、脳のpH・乳酸量の変化が共通の特徴であることを明らかにした。

脳のpH低下・乳酸量増加、後天的な環境要因や作業記憶との関連も

また、健常な動物に心理的ストレスを与えたうつ病モデル(マウスとヒヨコ)や、うつ病の併発リスクが高い糖尿病や腸炎を誘発したモデルマウスでも脳のpH低下・乳酸量増加が見られた。これは、さまざまな後天的な環境要因が原因となる可能性を示している。

そして、以前に研究グループが解析した以外の統合失調症/発達障害のモデルマウスでも脳のpH低下と乳酸量増加が確認された。

さらに、109種類のモデル動物のうち、最初にデータを取得した65種類を探索群とし、乳酸データと行動試験データを統合した解析を行った。これにより、脳の乳酸量変化が行動レベルでの機能発揮に関連していることが示唆された。特に作業記憶の低下が乳酸量の増加と関連していることが明らかになった。残りの44種類のモデル動物を確認群とした独立した研究で、脳の乳酸量増加と作業記憶の低下との関連を再確認した。

自閉症モデルマウスでは、逆のpH増加・乳酸量低下を示すモデルも複数発見

自閉症モデルマウスにおいては、pH低下と乳酸量の増加を示すモデルと、それとは逆のpH増加・乳酸量低下を示すモデルが複数見つかった。これは、個人によって症状が大きく異なる自閉症における患者サブグループ(個人差)に対応している可能性が考えられる。

認知機能障害を伴う幅広い疾患に共通する脳内特性の手がかりとなる可能性

この研究は、精神・神経疾患の動物モデルにおける脳のpHおよび乳酸量を包括的に評価した初の大規模研究である。得られた知見は、認知機能障害を伴うさまざまな疾患に共通する脳内の特性を理解する新たな手がかりとなる可能性を持ち、既存の疾患分類の枠組みを超える影響をもたらすかもしれない。

今回の研究成果は、モデル動物を用いた基礎研究でありすぐに臨床応用できるわけではないが、神経科学や精神医学の分野における新たな研究方針や精神・神経疾患の治療戦略の開発に貢献することが期待される。さまざまなモデル動物は、疾患の特定の症状や特定の患者サブグループに対応する可能性がある。各モデル動物の脳のpHおよび乳酸量の変化に焦点を当て、それが生じる脳領域を特定し、その変化の詳細なメカニズムを解明することで、対応する症状や状態における脳病態の理解が深まることが期待される。「乳酸およびpHの実体である水素イオン(H+)は、さまざまなタンパク質に結合してその構造や活性を調節するなどの機能を持っているが、疾患におけるpHや乳酸量の変化が病態や症状に対して与える影響が良いのか悪いのかはまだ明らかではない。これらの変化の機能的な意味を解明することで、将来、脳の代謝変化という生物学的特徴に基づく新たな治療法の開発が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。

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