唾液腺におけるインクレチンの役割は?Wistarラットを用いて検討
東京医科歯科大学は3月27日、胎生期・発達期ラットにおける栄養環境の変化が唾液腺におけるインクレチン発現に影響を与え、高脂肪食摂取母体由来の出生仔(雄、10週齢)では顎下腺GLP-1発現が有意に増加し、高脂肪食摂取母体由来の出生仔(雄、3週齢)では顎下腺GIP発現が有意に低下していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科咬合機能矯正学分野の小野卓史教授と渡一平助教およびPornchanok Sangsuriyothai大学院生らの研究グループと、同大大学院医歯学総合研究科硬組織生化学分野の井上カタジナアンナ助教、Srinakharinwirot大学のSaranya Serirukchutarungsee講師らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Frontiers in Physiology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
妊娠・授乳期の偏った栄養摂取状態は糖尿病をはじめ、母体のその後の健康状態に深刻な悪影響を及ぼすのみならず、新生児にとっても生涯にわたりさまざまな健康被害が生じることがわかってきた。いわゆるDOHaD仮説より、胎生期から発達期にかけての健康・栄養状態が成人期以降の糖尿病や心血管疾患をはじめとする各種疾患リスクに関連すること明らかにされている。母体の低栄養状態が引き起こす次世代の健康被害に関する疫学調査から展開されてきたDOHaD研究だが、近年は世界的な過体重や肥満人口の急激な増加により、栄養過多に伴う新生児の長期的な各種疾患発症リスクに関する知見が集積されつつある。
食物摂取に伴い消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンであるインクレチンには、glucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)の2つが存在し、GIPは十二指腸のK細胞、GLP-1は上部小腸のL細胞でそれぞれに産生・分泌され、血中に移行する。先行研究より、ラット唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)においてGIPとGLP-1の双方が産生・分泌されることが報告されているが、唾液腺におけるインクレチンの役割はまだよく知られていない。
このような背景のもと、研究グループは今回、Wistarラットを用いた動物実験系において、妊娠・授乳期の母獣および離乳後の出生仔に高脂肪食を継続摂取させた際の顎下腺インクレチン発現への影響を、組織・生化学的解析手法によって検討した。
高脂肪食摂取母体由来の出生仔では、顎下腺GLP-1発現が有意に増加
研究グループは、妊娠・授乳期に通常食または高脂肪食を摂取させたWistarラット母獣から出生した仔(雌雄)に、離乳後も通常食または高脂肪食を摂取させ、経時的に体重、食餌量、カロリー摂取量および空腹時血糖を測定した。その結果、高脂肪食を摂取させた出生仔では雌雄ともに食餌量は減少したものの、体重、カロリー摂取量は有意に増加していることが判明。一方、生後52日雌性出生仔を除いて、高脂肪食と通常食を摂取した出生仔(雌雄)の空腹時血糖について、有意な差は認められなかった。
次に、出生前から通常食または高脂肪食を摂取したラット(雌雄)の顎下腺に発現するインクレチン(GLP-1、GIP)について、免疫組織学的手法により解析を行ったところ、高脂肪食を摂取した生後10週齢雄の顎下腺に発現するGLP-1は有意に増加していた。一方、通常食または高脂肪食を摂取したラット(雌雄)に発現するGIPについては、有意な差は認められなかった。
高脂肪食摂取母体由来の出生仔、顎下腺GIP発現は有意に低下
さらに、顎下腺でのGLP-1およびGIPについて定量PCR法を用いて発現量を調べたところ、高脂肪食を摂取した3週齢雄出生仔では、発現するGIP mRNA量が有意に低下し、高脂肪食を摂取した10週齢雄性出生仔では発現するGIP mRNA量が有意に増加していた。
糖尿病の新たな予防・治療法開発へつながることに期待
今回の研究により、胎生期・乳児期の栄養環境が、唾液腺インクレチン発現に影響を与えることが、世界で初めて明らかにされた。
「DOHaD仮説のもと、妊娠・授乳期の栄養摂取状態は出生子の健康状態、とりわけ糖代謝に長期的な悪影響を与える可能性が示唆されているが、この耐糖能異常は唾液腺インクレチンを介しても惹起される可能性があり、唾液腺インクレチン機能の解明は、糖尿病の新たな予防・治療法開発へとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース