歯数と認知症リスクの関連、実際よりも大きく見積もられていた可能性
東北大学は3月26日、口腔状態と認知機能が互いに影響し合うことによる相互作用を除外したより適切な統計学的手法を用いて、口腔状態と認知機能との関連を評価したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターデータサイエンス部門の草間太郎助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に掲載されている。
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これまでの研究から、歯を多く失った高齢者では、認知症のリスクが高くなることが報告されている。しかし、口腔状態と認知機能は互いに影響し合っているため、その影響を考慮しない分析では、関連の強さを実際よりも大きく見積もっている可能性がある。そのため、口腔状態と認知機能を複数時点で評価して、口腔状態と認知機能の相互作用による影響を除外することで、これまでの研究よりも適切に関連を評価できる可能性がある。研究グループは、2時点で口腔状態と認知機能を測定し、周辺構造モデルという分析方法を用いて、口腔状態と認知機能の相互作用による影響を除外した上での口腔状態と認知機能との関連を明らかにした。
口腔状態と認知機能の相互作用の影響を除いても、歯数・咀嚼困難・口腔乾燥と認知症リスクに関連あり
今回の研究は2010年に実施されたJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study:日本老年学的評価研究)調査に参加した65歳以上を対象とした9年間の追跡研究である。2010年・2013年時点における口腔の状態(歯数および咀嚼困難・むせ・口腔乾燥の有無)を調査し、2013~2019年までの間の認知症の発症の有無との関連を調べた。分析に際しては、周辺構造モデルを用いて、2010年・2013年時点の認知機能の影響を除外した上での、各口腔状態の指標が認知症の影響に関連するのかを明らかにした。分析に際しては、性別・年齢・教育歴・等価所得・婚姻状況・併存疾患(がん・脳卒中・糖尿病・高血圧)・喫煙歴・飲酒習慣・歩行時間の影響も取り除いた。
対象者3万7,556人における認知症の発症率は100人年あたり2.2だった。認知症の発症率は歯数の少ない人および咀嚼困難・むせ口腔乾燥などの口腔機能が低下している人で高かった。周辺構造モデルを用いた分析により口腔状態と認知機能の相互作用による影響を取り除いた解析においても、認知症のリスクは歯数が19本以下の人で1.12倍、歯が0本の人で1.20倍、咀嚼困難を有する人で1.11倍、口腔乾燥を有する人で1.10倍高いことが示された。しかし、むせと認知症との間には統計学的に有意な関連は示唆されなかった。
口腔機能の低下予防や服薬の調整などでも認知症リスク低下の可能性を示唆
今回の研究から、口腔状態と認知機能との相互作用による影響を考慮しても、歯数が少ないこと・咀嚼困難を有すること・口腔乾燥を有することが認知症リスクの上昇と関連することが示唆された。
歯の喪失だけでなく、咀嚼困難や口腔乾燥などの口腔機能の低下は高齢者によくみられる健康問題である。「歯の喪失を予防するだけでなく、口腔機能の低下予防のための適切な治療やリハビリテーション、服薬の調整などにより、認知症のリスクを低下できる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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