最新の画像生成系AIの登場で、読影者養成効率化の検証が可能に
広島大学は3月25日、AIを活用した網膜疾患の画像診断トレーニング法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の田淵仁志寄附講座教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Ophthalmology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
AI診断は大きな可能性を秘めているものの、安全の観点から専門医診断の併用が必要だ。AIによる見落としや、正常のものを異常とする偽陽性率の高さは医療提供サイドの責任上無視することはできない。一方、AIによる医療の効率化については医療提供サイドも期待しているところであり、AI診断の欠点を補完する役割の人材養成のニーズが存在している。
また、これまでの人工知能技術でも画像合成が可能だったが生成には非常に時間がかかり、大量の画像を利用した教育手法は現実的ではなかった。しかし、最近になって画像生成が非常に効率化された最新の画像生成系AIが登場し、懸案されていた画像読影者養成の効率化手法の効果検証が可能になった。
5つの網膜疾患のAI合成画像によるWebトレーニング、平均53分の受講で診断精度向上
AI合成画像は5つの網膜疾患(網膜剥離、緑内障、加齢黄斑変性、血管閉塞症、糖尿病網膜症)および正常眼底の計6状態、各100枚で構成し、Web上の学習コースを対象に実施した。
性能評価は実際の患者画像を用いて、同上6状態、各20枚、計120枚の画像で2種類の画角(学習された220度画像(眼底の8割を撮影範囲とする超広角画像)と未学習の50度画像(一般的な健康診断で用いられる眼底中心部を精査する標準画角画像)で2回実施。その結果、学習者は平均53分でコースを完了し、診断精度が有意に向上した。
学習者の診断正答率と応用能力が向上、AIがヒトのスキルを強化してくれる可能性
超広角画像の平均診断正答率は学習前の43.6%から学習後は74.1%に、標準画角画像では学習前の42.7%から学習後は68.7%に向上した。
超広角画像で学習された最新AIモデル(英国エジンバラ大学)の正答率は73.3%、標準画角画像では40%で、学習者の診断性能は最新AIモデルに匹敵する上に、応用能力(汎化性能)で大きく上回ることが示された。また、AIがヒトのスキルを代替するのではなく、強化してくれる可能性が示唆された。
MRI・CT・エコーなど、幅広い診療科の医用画像分野に応用可能
今回の研究により、従来の教科書スタイルでは自学自習が難しい眼科専門疾患(眼瞼腫瘍、角膜感染症、眼位異常など)やOCTなどの最新撮影デバイスに対する眼科専門医の診断技術を、大量のAI合成画像トレーニングでブラッシュアップする医師の生涯学習ツールとして提供することが可能だと判明した。この点についてはMRI・CT・エコーなどのあらゆる医用画像分野にも応用可能で、全診療科が対象となる。
「国際展開として、東南アジア諸国を念頭においた海外における医療画像診断AIおよび今手法による学習者による2段階診断システムを学習者の養成を含めたパッケージとして、広島大学として展開したいと考えている。AIによる人のスキル向上、ラーニングカーブの著しい短縮はAI活用の新しい視点であり、画像診断のみならず手術技術領域にも展開していく予定だ」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・広島大学 研究成果