腰痛の症状を改善する運動や、悪化・再発予防につながる技術が求められている
東京医科歯科大学(以下、TMDU)は3月21日、AI(人工知能)により、スマートフォンやタブレット端末で撮影した映像や問診データを解析して、慢性の非特異的腰痛(慢性腰痛)のセルフケアを支援する技術を開発したと発表した。この研究は、日本電気株式会社(以下、NEC)と同大との共同研究によるもの。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
厚生労働省の「2022(令和4)年国民生活基礎調査」によると、腰痛は日本における病気やけがなどによる自覚症状で男女ともに第1位となっており、国民病とも言われている。腰痛は慢性化することも多く、生活機能を著しく損なう大きな健康問題であると同時に、医療・介護給付費などの社会保障費の増大といった問題を引き起こすことが懸念されている。しかし、特に慢性腰痛の症状の改善には月に数回の頻度で通院し続ける必要があり、距離や時間の制約から、サービスを十分に受けられない人も多くいる。
高齢化が進む中、慢性腰痛を持つ人の身体状態をもとに、症状改善のための適切な運動を促し、悪化や再発の防止にもつながる技術が期待されている。
スマホカメラなどで撮影した映像をもとに慢性腰痛の原因を推定、運動プログラム提示
同技術は、NECの持つ2D/3D骨格推定技術や仮説推論技術などの最先端AIと、TMDUが有する医学的知見をもとに開発。スマートフォンやタブレット端末のカメラで撮影した自身の映像をもとに、骨格の推定、身体の部位ごとの状態評価、慢性腰痛の原因推定を自動で行い、症状に応じた運動プログラムを提示する。
2D/3D骨格推定技術により、どの角度からの映像でも高精度に骨格推定が可能に
通常、スマートフォンやタブレット端末のカメラで自身を撮影すると、さまざまな角度から撮影された映像になる。そのため、カメラ映像を活用する従来の技術では撮影する角度によって骨格が歪んで推定されることがあり、精度低下の原因になっていた。
通常、スマートフォンやタブレット端末のカメラで自身を撮影すると、さまざまな角度から撮影された映像になる。そのため、カメラ映像を活用する従来の技術では撮影する角度によって骨格が歪んで推定されることがあり、精度低下の原因になっていた。
そこで、人物がカメラに映る角度をAIが自動的に考慮して骨格を推定する、2D/3D骨格推定技術を開発した。これにより、さまざまな角度からの映像でも高精度に骨格を推定することが可能になった。
映像から背中の形状を推定、専門家と同等の精度で評価可能に
また、理学療法士などの専門家は慢性腰痛の原因を探るため、前屈・後屈・回旋などの各動作を観察し、骨盤と大腿の角度といった身体の部位間の関係性と身体の部位と背中の形状との関係性から「関節の屈曲が不足・適度に屈曲・過剰に屈曲」など、身体の部位ごとの状態を評価する。従来技術では、映像から推定した骨格情報をもとに、身体の部位間の関係性を算出して部位ごとの状態を評価していた。しかし、身体の部位と背中の形状との関係性を加味することは困難で、状態評価の精度の向上に限界があった。
そこで同技術では、映像から背中の形状を高精度に推定する技術を開発し、身体の部位と背中の形状との関係性も加味して、部位ごとの状態を専門家と同等の高い精度で評価可能となった。
慢性腰痛を引き起こす原因を、高精度・網羅的に「平均10秒以内」で推定可
慢性腰痛の原因を探るためには、年齢、性別、生活習慣など一人ひとりの属性情報や、症状などの観察可能な情報から「腰椎の屈曲が過剰」など、原因となり得る運動学的観点に基づく身体的な課題を網羅的に探索する必要がある。しかし、これには膨大な組み合わせが発生するため、従来の推論技術では原因の探索に数時間を要していた。
そこで今回、SAT(充足可能性問題)ソルバを用いたNEC独自の仮説推論技術を開発。これにより、映像や問診データをもとに、慢性腰痛を引き起こす主要な原因を平均10秒以内で推定可能となった。また、TMDUが有する医学的知見をもとに、身体の部位ごとの状態、問診データ、慢性腰痛の原因の膨大な組み合わせを知識ベース化することで、高い精度で網羅的に慢性腰痛の原因を推定することが可能となった。
新技術の実証・有効性を検証し、適用範囲を首や肩の不調にも拡大予定
同技術では、これら推定される原因に応じて慢性腰痛の改善に適した運動プログラムが端末上に提示される。運動プログラムは動画とともに提供されるため、慢性腰痛を持つ人自身が、自宅などで動作を確認しながら運動プログラムに取り組むことが可能だとしている。
NECとTMDUは、2024年度中にNECカラダケア神楽坂店などにおいて同技術の実証を行い、有効性を検証する予定。両者は「将来的には、本技術の適用範囲を慢性腰痛から首や肩の不調にも拡大していく計画だ」と、述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース