乳児期遅発型は発症5年後の死亡率50%、遺伝性代謝性疾患MLD
協和キリン株式会社の子会社の英国Orchard Therapeutics plcは3月18日、Lenmeldy(TM)(一般名:atidarsagene autotemcel、開発番号:OTL-200)について、(早期発症型)小児の異染性白質ジストロフィー(MLD)の治療法として米国食品医薬品局(FDA)から承認されたことを発表した。
MLD は生命を脅かす希少な遺伝性の代謝性疾患であり、既報では10万人に1人の割合で発症すると推定されている。酵素アリルスルファターゼA(ARSA)をコードする遺伝子の変異により、脳をはじめ、肝臓、胆のう、腎臓、脾臓などの部位にスルファチドが蓄積。時間経過とともに神経系が障害され、運動・認知機能の低下、重度の痙縮、痙攣などの神経症状をきたす。乳児期遅発型は、発症から5年後の死亡率は50%、若年型における10年後の死亡率は44%と推定されている。
治療の対象となるのは、臨床症状を伴わない乳児期遅発型(PSLI:pre-symptomatic late infantile)、臨床症状を伴わない早期若年型(PSEJ:presymptomatic early juvenile)、初期の臨床症状が現れた早期若年型(ESEJ:early-symptomatic earlyjuvenile)MLDで、いずれも早期発症型MLDとされている。
1回のLenmeldy治療で酵素機能を正常化、進行を遅らせる可能性
今回の承認により、Lenmeldyは、PSLI、PSEJ、ESEJのMLDに対して、米国で唯一承認されている治療法となった。Lenmeldyは、患者自身の造血幹細胞のゲノムに、レンチウイルスベクターを用いて機能的なヒトARSA遺伝子を1コピー以上、ex vivo(体外)で挿入することにより、MLD発症の原因となる遺伝的要因を修復することを目指す。遺伝子が修復された細胞を患者に戻すと、生着後に多様な細胞に分化する。さらに、その一部の細胞は血液脳関門を越えて中枢神経系に移行し、正常な酵素を産生するように機能する。これにより、一度の治療で酵素機能が正常化し、病気の進行を止めたり遅らせたりできる可能性がある。
全生存期間を有意に延長、多くの乳児期遅発型の発症年齢でも運動機能・認知機能を維持
今回のFDAによる承認は、造血幹細胞遺伝子治療を一度受けた早期発症MLDの小児患者37名と、自然歴データとの比較に基づくもの。37名は、2つの単群非盲検試験、Expanded Access Program(代替治療薬の存在しない重篤な疾患等の治療のために人道的見地から未承認薬の提供を行う制度)のもとで治療を受けた者からなる。全ての患者は、イタリア・ミラノにあるOspedale San Raffaele病院においてLenmeldyの投与、および治療後の管理を受けた。
最も早期に治療を受けた患者(中央値6.76年)における12年以上の追跡調査において、Lenmeldy治療により全生存期間が有意に延長し、ほとんどの乳児期遅発型患者において未治療の患者が重篤な運動機能・認知機能障害をきたす年齢を過ぎても、運動機能や認知機能が維持されていた。また、早期若年型症例の一部においても、未治療症例と比較して運動機能や認知機能が維持されていた。
臨床検査値以外の主な有害事象は(発現率10%以上)は、発熱性好中球減少症(85%)、口内炎(77%)、呼吸器感染症(54%)、発疹(33%)、デバイスに関連した感染症(31%)、その他のウイルス感染症(28%)、発熱(21%)、胃腸炎(21%)、肝腫大(18%)。臨床検査値の異常は、Dダイマー上昇(67%)、好中球減少(28%)、肝酵素上昇(23%)だった。
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