Modic変性タイプ1の腰痛に対する治療方法は未確立
藤田医科大学は3月19日、椎間板への多血小板血漿(PRP)注射の安全性と有効性を、Modic変性を伴う腰痛患者10人を対象に検証した結果、大きな有害事象を認めず、個人差はあったものの、総じて腰痛は改善し、半年後のMRI検査でもModic変性における炎症が沈静化していることが示されたと発表した。この研究は、同大整形外科学講座の藤田順之教授と川端走野講師らと、ジンマー・バイオメット合同会社、キヤノンメディカルシステムズ株式会社が共同で実施したもの。研究成果は、「JOR Spine」オンライン版に掲載されている。
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超高齢社会の到来とともに、人生100年時代といわれるようになり、健康寿命を延ばすことが益々重要になっている。腰痛は成人の約80%が一生のうちに経験するとされており、慢性的な痛みに発展することも多く、高齢者では健康寿命を縮めることが懸念されている。腰痛の原因は多岐にわたり、過去には85%が原因不明ともいわれていたが、最近では、多くの腰痛はその原因について同定できることが報告されている。Modic変性は、脊椎の椎間板と椎体の間に位置する椎体終板の変化を表しており、MRI検査によって主に3つのタイプに分類される。その一つであるModic変性タイプ1は、骨髄の炎症と浮腫を特徴とし、腰痛と強く関係していることが知られているが、その治療方法はいまだ確立されていない。
患者10人に対し国内初の椎間板PRP注射
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法は、近年注目を集めている再生医療の一つである。この方法はスポーツ傷害、関節炎、皮膚の再生など、幅広い医療分野での応用が進んでいる。PRP療法では、まず患者から血液を採取し、それを遠心分離機にかけて血小板を濃縮する。血小板には、傷の治癒プロセスを促進する成長因子や炎症を抑えるような因子が豊富に含まれており、この濃縮されたPRPを患部に注入することで組織の修復を促すことが知られている。PRP療法の大きな利点は、患部に注射で投与できるため、患者への侵襲度が低いこと、また、患者自身の血液から採取するため、アレルギーや拒絶反応のリスクが極めて低いことだ。PRP療法の効果は、損傷の程度や治療される疾患の種類によって異なるが、多くの研究でその有効性が示されている。しかしながら、Modic変性タイプ1を伴う腰痛患者に対するPRP療法の安全性と有効性に関しては、これまでよくわかっていなかった。
そこで今回、研究グループは、特定認定再生医療等委員会の承認のもと、3か月以上の腰痛があり、腰椎MRIでModic変性タイプ1を認める患者10人に対し、国内初の椎間板PRP注射を評価した臨床研究を行った。具体的には、「GPS(R) III システム」という血液成分分離キットを使ってPRPを抽出し、Modic変性のある椎間板に注入した。
大きな有害事象認めず、半年後MRIでModic変性に伴う炎症改善を確認
経過を半年間観察したところ、入院が必要となるような大きな有害事象は認められなかった。また、患者にいくつかの質問票に答えてもらったところ、個人差はあったが、半年間で総じて腰痛は改善していた。さらに、PRP療法を行ってから半年後に撮影したMRIではModic変性に伴う炎症が沈静化していることがわかった。今回評価できた患者数は決して多くはないが、椎間板へのPRP注射の安全性と有効性が示された。
他病態の腰痛患者に対するPRP療法の検証目指す
今後、研究グループは、治療として提供できるようにするため、改めて特定認定再生医療等委員会に申請する予定としている。「今回の研究ではModic変性のある患者に限られていたが、腰痛に関係する病態は他にも多くあり、将来的にはその他の病態を持つ腰痛患者においてもPRP注射の有効性を検証していきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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・藤田医科大学 プレスリリース