アゾール薬耐性株が問題となるアスペルギルスフミガタス、国内回収菌の詳細不明
千葉大学は3月14日、真菌(カビ)感染症である肺アスペルギルス症を引き起こす菌であるアスペルギルスフミガタスについて、世界最大規模でゲノムデータを統合し、国や地域ごとの菌株の遺伝的特徴や治療中に薬剤耐性化しやすいハイリスク系統の有無、その原因遺伝子座に関して研究したと発表した。この研究は、同大真菌医学研究センターの高橋弘喜准教授、筑波大学生命環境系の萩原大祐准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
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真菌(カビ)による感染症は、2022年にWHO(世界保健機関)からその脅威について警鐘が鳴らされている。中でも、難治性疾患である肺アスペルギルス症は世界中で年間300万人罹患しているとも言われている。その起因菌であるアスペルギルスフミガタスは、最も警戒すべき菌種として位置付けられ、症例監視の強化や治療法の開発が求められている。同菌は土壌など環境中に普遍的に分布しておりインフルエンザやCOVID-19などの他の肺感染症がリスク要因となるだけではなく、唯一の経口薬であるアゾール薬への耐性株が出現し、その治療は困難を極めている。
日本の臨床現場では、本菌による感染例が数多く報告され、治療中に薬剤耐性化が起こることも知られている。その過程で、多くの菌株が収集されてきたが、世界各国で収集された菌株との違いや薬剤耐性化しやすいハイリスク系統の存在については不明だった。
国内と世界の株をゲノム解析、遺伝的特徴と薬剤耐性化の原因遺伝子座を解明
研究グループは、日本で分離された株と世界中で報告された株について、そのゲノムデータと薬剤感受性試験データを世界最大規模で統合して解析を行った。統合したデータセットの集団ゲノミクス解析によって、国や地域ごとの菌株の遺伝的特徴、薬剤耐性化するハイリスク系統の原因遺伝子座を探索した。実験の結果、日本で分離される菌株の遺伝的特徴や、集団間での交雑の程度が明らかになるとともに、薬剤耐性化に寄与する遺伝子座が明らかとなった。
治療中の薬剤耐性化リスク評価などへの応用が可能、創薬資源としても期待
今回の研究により、日本で分離されるアスペルギルスフミガタスの集団構造や薬剤耐性株の出現に関連する遺伝子座がわかった。「診断に応用されれば、治療中に薬剤耐性化のリスク評価が可能となり、治療方針の先鋭化につながるなど、医療への応用が期待される。一方で、真菌はペニシリンに代表される創薬資源として重要であるため、本研究で産生されたゲノムデータの利活用により、新規有用物質の発見が期待される」と、研究グループは述べている。
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