肝臓でのフェロトーシス制御因子の探索は、新規治療法の開発につながるのか?
自治医科大学は3月14日、コレステロール合成経路の最終段階を担う酵素「DHCR7」の阻害がフェロトーシスを強力に抑制する作用があることを新たに発見したと発表した。この研究は、同大分子病態治療研究センター炎症・免疫研究部の山田直也研究員、唐澤直義講師、高橋将文教授、内分泌代謝学部門の石橋俊前教授、東北大学大学院農学研究科の伊藤隼哉助教、仲川清隆教授、九州大学大学院薬学研究院の山田健一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
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近年、これまで偶発的なネクローシスと考えられてきた細胞死の中にも、死を制御するプロセスが存在するRegulated cell death(RCD)が含まれることが明らかになってきた。病態に特異的に起きてくるRCDを制御する方法を確立することができれば、治療方法の確立に有用であると期待される。フェロトーシスは細胞膜のリン脂質の過酸化によって引き起こされる細胞死であり、近年、神経変性疾患や虚血再灌流による臓器障害、非アルコール性脂肪肝炎などのさまざまな病態に関与することが報告され、フェロトーシスの制御が有効な治療標的になることが期待されていた。
研究グループはこれまでに、肝臓の虚血再灌流障害やアセトアミノフェン急性肝不全において、フェロトーシスが組織傷害に重要な役割を果たしていることを見出していたことから、肝臓でのフェロトーシス制御因子の探索がこれらの治療方法の開発につながると考えた。
肝臓でフェロトーシスを制御する因子「DHCR7」を特定
研究グループは、肝臓におけるフェロトーシスの制御因子を新たに見つけるため、ヒト肝がん細胞株(Huh-7)を用いて、遺伝子欠損の影響を網羅的に探索する手法であるゲノムワイドCRISPRスクリーニングによる解析を実施した。
GPX4阻害剤であるRSL3によりフェロトーシスを誘導するセレクションの結果、生存した細胞の大部分がDHCR7遺伝子を欠損していることが明らかになった。実際に、DHCR7欠損細胞を作成して解析してみると、DHCR7欠損細胞は、種々のフェロトーシス誘導刺激に対して抵抗性であり、フェロトーシスの指標である過酸化リン脂質の生成が抑制されることがわかった。
DHCR7阻害剤が、マウス肝臓の虚血再灌流障害を抑制
一方、DHCR7は7-デヒドロコレステロール(7-DHC)をコレステロールに変換する酵素であることから、「DHCR7欠損細胞では7-DHCが蓄積することでフェロトーシスに対して抵抗性になるのではないか」と想定して検証を進めたところ、蓄積した7-DHCはラジカルスカベンジャーとして機能し、リン脂質の代わりに酸化されることで、リン脂質の過酸化を保護することがわかった。さらに、DHCR7を阻害することによって誘導されるフェロトーシス保護作用はコレステロール合成が活発な細胞において生じ、肝細胞において特徴的な作用であることがわかった。
DHCR7阻害が肝臓におけるフェロトーシス関連病態を抑制するのか検証するため、DHCR7阻害剤(AY9944)の効果をマウスにおいて検証したところ、DHCR7阻害剤は肝臓の虚血再灌流障害を抑制することが明らかになった。
非アルコール性脂肪肝炎など、他の慢性疾患への有効性にも期待
肝臓においてフェロトーシスは、虚血再灌流障害、アセトアミノフェン急性肝不全、ヘモクロマトーシス、非アルコール性脂肪肝炎、アルコール関連疾患など多岐にわたる病態に関与することが示されている。今回の研究では、DHCR7阻害が虚血再灌流障害などの急性肝障害に有効であることが示唆されたが、今後、非アルコール性脂肪肝炎など、他の慢性疾患への有効性についても、さらなる展開が期待される。
「生理的な範囲内、あるいは病態における7-DHCの変動がフェロトーシス制御に関与するかなど、7-DHCの未知の役割と疾患との関連についても解明が待たれる」と、研究グループは述べている。
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