治療の進歩で腎予後改善の急速進行性糸球体腎炎、透析導入率とその経年変化は?
新潟大学は3月13日、2006~2021年まで、日本の急速進行性糸球体腎炎による透析導入患者数と透析導入率の経年変化を評価したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Internal Medicine」に掲載されている。
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急速進行性糸球体腎炎は、数週~数か月の経過で腎機能が急速に低下して腎不全に至る糸球体腎炎症候群である。腎不全に至り透析導入が必要になる危険性が高いだけでなく、生命予後も不良で、治療にも難渋することが多く、日本国内では指定難病に定められている。急速進行性糸球体腎炎にはさまざまな疾患が含まれるが、代表的な疾患は抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連急速進行性糸球体腎炎と抗糸球体基底膜抗体(GBM)型急速進行性糸球体腎炎で、この2つが急速進行性糸球体腎炎の8割以上を占めている。
急速進行性糸球体腎炎は、予後不良の症候群であるが、早期に発見し治療を開始することで、腎不全への進行を止めることが可能になる。近年、治療の進歩などにより、急速進行性糸球体腎炎の腎予後の改善(腎不全にならないこと)や生命予後の改善が報告されているが、急速進行性糸球体腎炎による透析導入率の経年変化は検討されていなかった。そこで、2006〜2021年までの急速進行性糸球体腎炎による透析導入率を男女別に評価した。
2006〜2021年の透析導入率を検討、男性34%・女性58%増加と判明
2006〜2021年の急速進行性糸球体腎炎による透析導入率を計算した。分子となる性年齢階級別透析導入患者数は、日本の全数調査である日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」から、分母となる一般住民の男女別・年齢階級別人数はe-Stat(政府統計の総合窓口)から、それぞれ公表されている数字を用いた。急速進行性糸球体腎炎による透析導入患者数はそれほど多くはないため、透析導入率は4年ごとにまとめて検討した。間接法を用いて性別・年齢を調整し、2006〜2009年の透析導入率を1とした標準化発症比(standard incidence ratio、SIR)を求めた。年齢階級別にも経年変化を検討した。
2006年に男性235人、女性187人であった急速進行性糸球体腎炎による透析導入患者数は、年々増加し、2021年には男性314人、女性296人と、2006年と比較して男性で34%、女性で58%増加していた。
平均年齢は高齢化、年齢調整した導入率は2013年までは低下しその後上昇傾向
2006年に男性69.3歳、女性69.7歳であった急速進行性糸球体腎炎による透析導入患者の平均年齢は、年々高齢化し、2021年には男性73.8歳、女性75.9歳に上昇していた。
急速進行性糸球体腎炎による透析導入率を年齢で調整して比較したところ、2006〜2009年の4年間を1とすると、2010〜2013年のSIRは男性0.90(95%信頼区間0.85〜0.96)、女性0.92(95%信頼区間0.86〜0.99)と、男女とも有意に低下していた。しかし、2014〜2017年は、男性0.94(95%信頼区間0.88〜0.99)、女性1.10(95%信頼区間1.03〜1.17)、そして2018〜2021年には男性1.01(95%信頼区間0.96〜1.07)、女性1.20(95%信頼区間1.13〜1.27)と、徐々に増加傾向にあり、女性の直近4年間(2018〜2021年)は、2006〜2009年よりも有意に透析導入率が高くなっていることがわかった。
年齢別にみると、男女とも70歳以上で透析導入率が近年上昇しており、男性では90歳以上、女性は80〜89歳でその上昇が顕著だった。
急速進行性糸球体腎炎による透析導入、日本の高齢化に伴い増加する可能性を示唆
今回、急速進行性糸球体腎炎による透析導入率の経年変化を解析し、その結果、いったん低下した透析導入率は近年、上昇傾向にあり、特に70歳以上の高齢者でその上昇が顕著であることが明らかになった。日本の人口高齢化に伴い、高齢の急速進行性糸球体腎炎による透析導入患者が増加する可能性が示唆される。
なぜ透析導入率がこのような経年変化を呈したのか、今回の研究からその理由を明らかにすることはできないが、診療ガイドラインの公表や改定、治療の進歩や保険収載、そして難病指定など、急速進行性糸球体腎炎に関わるさまざまな要因が影響したと考えられる。「今後さらに研究を進め、急速進行性糸球体腎炎の予後が少しでも改善できるよう、貢献していきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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