追いつき成長がみられないSGA児、妊婦の血中金属は影響するのか?
千葉大学は3月12日、子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)の在胎不当過小(small-for-gestational-age:SGA)だった子どもの母親(妊婦)の血液およびさい帯血と医療記録による調査データを用いて、妊婦の血中・さい帯血の金属濃度とSGA児の出生後の成長との関連について解析した結果を発表した。この研究は、エコチル調査千葉ユニットセンター、千葉大学予防医学センター 高谷具純講師らの研究チームと、国立研究開発法人国立環境研究所(以下、国立環境研究所)との共同研究によるもの。研究成果は、「Environmental Health」に掲載されている。
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エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国で10万組の親子を対象として開始された、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施している。
SGAは、子宮内の胎児の成長が遅れ、在胎週数に見合う標準的な出生体重に比べて小さく生まれた状態(下から10パーセント未満)のこと。今回の研究では、新生児の出生体重が、在胎週数に見合う標準的な出生体重に比べて小さく、小さい方から10%未満に入る場合にSGAとみなした。SGA児の多くは、出生後2歳くらいまでに身長が年齢の基準範囲内に到達する、追いつき成長がみられる。しかし、中には追いつくことができず、身長が低いままの子どももいる。
SGAには体質や環境など、さまざまな要因があるが、これまでの研究により、妊婦の血液中の鉛・カドミウム・水銀といった有害金属などの濃度が高いと、子どもがSGAで出生する可能性が高まることが報告されている。しかし、妊婦の血液中の金属がSGA児の出生後の成長にどのような影響があるかについては、研究が進んでいなかった。
妊婦血中マンガン濃度、さい帯血中カドミウム濃度が2、3歳時点の身長伸び率低下と関連
研究グループは今回、エコチル調査の約10万組の母子のうち、SGA児だった約4,600人の子どもと母親(妊婦)のデータを使用して、妊婦の血液およびさい帯血の金属濃度とSGA児の出生後の体重、身長との関連について解析を行った。
血中濃度を測定した金属は、有害金属とされる鉛・カドミウム・水銀と、人体に必須でありながら摂取量が多すぎると有害となることがあるマンガン・セレン。これらの金属について解析を行ったところ、妊婦血中のマンガン濃度は2歳時点での身長の伸び率の上昇との関連が示された。さらに、さい帯血中のカドミウム濃度は3歳時点での身長の伸び率の低下との関連が示された。
さい帯血中のカドミウム濃度が高くなるほどSGA児の身長が基準に追いつけない可能性
次に、それぞれの金属について解析を行ったところ、妊婦血中の金属濃度は関連がなかったが、さい帯血中のカドミウム濃度が高くなるほどSGA児が3歳と4歳時点で、身長が基準範囲に追いつけない可能性が高まることが示された。
子どもの発達や健康に影響を与える化学物質等の環境要因解明に期待
他のエコチル調査の研究結果から、妊婦のカドミウムの摂取は、ほとんどが食品由来と推定されるという。現在の一般的な日本人において、食品からのカドミウム摂取が健康に影響を及ぼす可能性は低いと考えられている。また、胎盤には妊婦から胎児へのカドミウムの移行を防ぐ働きがあるため、胎児の血液中のカドミウム濃度はさらに低くなる。同研究のさい帯血中カドミウム濃度は、妊婦の血中濃度の6%程度だったという。
同研究では、さい帯血のカドミウムの濃度は低い範囲にあったが、低い濃度の範囲の中でも濃度が高いほどSGA児の出生後の成長を抑える影響があることが示された。カドミウムによって出生後の成長が抑えられることと、子どもの今後の健康や発達がどのように関連するかについては、さらに研究が必要だ。
「今後の調査で子どもの発達や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が、さらに明らかになることが期待される」と、研究グループは述べている。
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