IL-6とWnt/βカテニン経路、大腿骨頭壊死と関連性が深いとされるが詳細は不明
名古屋大学は3月14日、阻血性大腿骨顆部壊死マウスモデルにおいて骨粗しょう症治療薬である抗スクレロスチン抗体による大腿骨顆部圧潰の予防と、抗スクレロスチン抗体投与群にてインターロイキン-6(IL-6)の発現が低下していることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科整形外科学の小澤悠人医員、竹上靖彦病院講師、今釜史郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Bone」に掲載されている。
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大腿骨頭壊死は、厚生労働省の指定難病の1つであり、進行すると関節破壊を引き起こす。国内では、大腿骨頭壊死の発生率は年間1.9人/10万人と報告されている。大腿骨頭壊死の治療としては人工股関節置換術が一般的であるが、60歳未満の若い患者においてはしばしば成績が不良となっている。減圧療法などの関節温存治療や、ビスホスホネート製剤などの薬物治療が報告されているが、その有用性は限られている。
骨粗しょう症薬として注目の「抗スクレロスチン抗体」、Wnt/βカテニン経路を不活化
大腿骨頭壊死は慢性炎症が原因であるといわれておりIL-6と関連性が深いといわれている。また近年、Wnt/βカテニン経路を活性化することで骨形成が促進され、骨吸収が抑制されることから、大腿骨頭壊死の治療としてWnt/βカテニン経路の関連性が報告されている。また、抗スクレロスチン抗体はWnt/βカテニン経路を不活化するスクレロスチンの作用を抑える骨粗しょう症薬として注目を集めている。
一方で、大腿骨頭壊死症におけるIL-6とWnt/βカテニン経路との相互関係はわかっていない。研究グループは、大腿骨頭壊死症、Wnt/βカテニン経路、およびIL-6の関係を調べ、大腿骨頭壊死症と抗スクレロスチン抗体を用いた治療介入の可能性について検証した。
移行層でβカテニン・IL-6が増加、抗スクレロスチン抗体投与で治療効果の病理像確認
大腿骨頭壊死症患者から取り出した骨頭と、変形性股関節症患者の骨頭をIL-6、βカテニンにて染色を行った。移行層ではβカテニン、IL-6の発現の上昇を認めた。
阻血性大腿骨顆部壊死マウスモデルを用いた阻血性骨壊死からの回復の時系列を抗スクレロスチン抗体投与群とVeh群を比較した。抗スクレロスチン抗体投与群では4週で壊死し、Empty lacunae(細胞が失われてできた空洞で、骨壊死の特徴的な病理像)の減少と骨梁構造の出現が観察された。
抗スクレロスチン抗体投与により虚血性壊死側でβカテニン増加/IL-6の減少
続いて、阻血性大腿骨顆部壊死マウスモデルを用いて大腿骨顆部のRT-PCRを実施。抗スクレロスチン抗体投与群では虚血性壊死側でのβカテニンの増加、IL-6の減少を認めた。また免疫組織染色でも同様にIL-6の抑制を認めた。
また、破骨細胞を染色するTRAP染色を行ったところ、術後2週において阻血性壊死側の抗スクレロスチン投与群で破骨細胞の有意な減少を認めた。
術後6週の抗スクレロスチン群、壊死手術側の大腿骨顆部圧潰を抑制
μCTでは虚血性壊死側にて抗スクレロスチン抗体投与群によるBV/TVの増加を壊死手術側、Sham手術側ともに認めた。また壊死手術側の大腿骨顆部の圧潰抑制を術後6週の抗スクレロスチン群で認めた。
今回の研究では、抗スクレロスチン抗体が阻血性壊死大腿骨顆部のIL-6の発現と関連し、Empty lacunaeの減少の促進、破骨細胞の減少にもつながり、大腿骨顆部の圧潰を抑制することが示された。このことから現在骨粗しょう症薬として使用されている抗スクレロスチン抗体であるイベニティが大腿骨頭壊死症の治療薬となる可能性が示唆される。「今後大腿骨頭壊死症患者に対してイベニティの使用などの前向き研究などが必要と考えている」と、研究グループは述べている。
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