日本での早期CKD診断率10%見満との報告も、早期発見・介入が不十分な状況
香川大学は3月12日、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)診療の実態を明らかにするため、日本を含む世界3か国においてCKD患者の臨床アウトカム、医療費、治療薬の服用状況を調べた結果を発表した。この研究は、同大医学部附属病院腎臓内科の祖父江理講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney360」に掲載されている。
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CKDの患者数は全世界で約8億人と推計されており、今後も高齢化に伴ってその数が増加すると予測されている。CKD発症後は腎臓の機能が徐々に低下してくが、この低下を食い止めることができず末期腎不全となった場合は、透析や腎移植なしでは生命維持が困難な状況となる。世界で最も高齢化が進んでいる国の一つである日本においても、CKDは深刻な問題だ。成人の8人に1人、すなわち1300万人がCKDであると考えられている。また、透析を受けている患者数は約35万人にのぼり、世界第2位の透析大国となっている。透析は生命維持に欠かせない治療だが、頻繁な通院や長時間の拘束などにより、患者やその家族の生活の質を著しく低下させる。さらに、年間400~500万円にものぼる高額な医療費や透析液の製造・廃液処理などによる環境負荷も大きな問題となっている。
末期腎不全を回避するためには、腎機能の低下を出来る限り早期に発見し、適切な治療介入を行うことが重要だ。しかし、近年実施された研究によると日本における早期CKD患者の診断率は10%見満と報告されており、早期発見・早期介入は不十分な状況である。
日本など3か国CKD成人患者、臨床アウトカム・医療費・治療薬の服用状況を解析
今回の研究では、CKD診療の実態を明らかにするため、OPTIMISE-CKD研究のデータにより、CKD患者の臨床アウトカム、医療費、治療薬の服用状況を調べた。OPTIMISE-CKD研究は、電子カルテデータや医療費請求データを用いた観察研究で、日本、スウェーデン、米国のCKD成人患者を対象とした試験。日本ではメディカルデータビジョン社のデータベースを使用した(データ期間:2016年1月1日~2022年12月31日)。CKD基準を満たした日本の患者7万5,965例(3か国全体では44万9,232例)の年齢中央値は81歳、54%が男性だった。また、2型糖尿病の併存はおよそ2割で、これは3か国全てで同様の結果だった。
CKD診断後の入院イベント・死亡リスク「高」
CKDや心不全の診断を伴う入院イベントは、動脈硬化性疾患(脳卒中、心筋梗塞、末梢動脈疾患)の診断を伴う入院イベントよりも高頻度だった。また、CKDや心不全の診断を伴う入院・外来の5年間の累積医療費は、いずれの疾患においても患者1人あたり90万円を超えており、動脈硬化性疾患よりも高額だった。CKDの推定患者数1300万人に当てはめて考えると、1年間で2億3400万円が使用されている計算になる。原因を問わない入院および全死亡の発生率はそれぞれ93.5および14.1件/100人年。これは、大多数の患者がCKD診断後1年以内に入院を経験すること、さらに、およそ15%の患者が1年以内に死亡するリスクがあることを示している。
CKD患者の入院・死亡リスク、2型糖尿病有無に関わらず同様の結果
また、CKD患者における入院および死亡リスクは2型糖尿病有無に関わらず同様だった。2型糖尿病はCKDや心不全、神経症、網膜症など多くの併存症があることから、これらの併存症に注意を払って診察が行われている。2型糖尿病併存のない患者においても、2型糖尿病併存患者と同等のイベント発症リスクを有していたことから、実臨床においては2型糖尿病の有無に関わらず、高血圧や心血管疾患などがあれば一層、患者の腎機能をモニタリングすることが必要になる。特に、早期CKD患者の多くはかかりつけ医で診察を受けていると予想されることから、血圧の上昇や浮腫などの兆候を見逃さないことが重要だ。
腎保護薬の服用割合、スウェーデン・米国より日本は「低」
現在、CKDに対しては腎保護薬であるRAS阻害薬(日本での適応は高血圧症のみ)やSGLT-2阻害薬などの治療選択肢がある。CKD基準を満たした時点でのこれらの腎保護薬を服用している患者の割合を調べたところ、2型糖尿患併存患者で約4割、非併存患者で約2割となっており、日本が3か国の中で最も低い値だった。また、腎保護薬の服用割合は、CKD基準を満たしてからの12か月間で変化がなかった。これらの結果は、CKD診断時点において腎保護薬が十分に服用されていないことを示している。
CKDの早期診断・早期介入に期待
CKDは早期段階では症状がほとんど無いため、腎機能の検査値に異常が生じた時点では診断・介入がなされないことが多くある。加えて、透析が必要になること、心血管疾患の発症リスクが上昇することなどCKDのリスクが十分に理解されていないことも、医師による対応が不十分になる要因と考えられる。CKDと診断され、介入が始まる時点では、すでに腎機能が正常の半分程度に低下していることも珍しくなく、早期診断・早期介入が望まれる、と研究グループは述べている。
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・香川大学 プレスリリース