問題飲酒リスク要因、仕事面だけでなく家庭生活・社会活動の観点から包括的に解析
富山大学は3月11日、労働者の問題飲酒の関連要因について、仕事の側面だけでなく、家庭生活や社会活動の観点から包括的に明らかにすることを目的に行った研究結果を発表した。この研究は、同大学術研究部医学系成人看護学2講座の茂野敬助教、同大学術研究部医学系疫学・健康政策学講座の立瀬剛志助教、関根道和教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Alcohol」に掲載されている。
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WHOは、問題飲酒が世界中の人々の健康に対する主要な危険因子の1つであり、持続可能な開発目標(SDGs)の多くの健康関連の目標に直接影響を及ぼすことを報告している。問題飲酒とは、アルコール依存症およびアルコール乱用や有害な飲酒、アルコールに関連した問題や結果を抱えていること、また、そのような問題のリスクがあることをいう。その中でも、労働者の問題飲酒の割合が学生や主婦などと比較して高いこと、労働者の問題飲酒がプレゼンティーズム(出勤しているが業務効率が落ちている状態)やアブセンティーズム(仕事を休業/欠勤している状態)を引き起こし、労働生産性の低下につながる可能性があることが報告されている。そのため、労働者の問題飲酒を予防することは世界的に重要な課題だ。
これまで、仕事の特性や家庭生活、社会活動の有無が、それぞれ労働者の問題飲酒のリスク要因であることは明らかとなっている。しかし、仕事のストレスや仕事のパフォーマンス、仕事と家庭のバランス、家庭以外での他者との関わりを含めて、男性と女性各々で問題飲酒のリスク要因を詳細かつ包括的に明らかにした研究はなかった。
2014年日本公務員研究参加者3,136人対象に分析
研究グループは、2014年の日本公務員研究参加者4,552人のうち、調査項目に回答のあった3,136人分のデータを分析対象として研究を行った。日本公務員研究は、ロンドン大学とヘルシンキ大学との国際共同研究で、公務員を対象としたストレスと健康に関する悉皆調査。調査項目は、基本属性(性別や年齢など)、飲酒習慣(飲酒頻度や飲酒量、問題飲酒の有無)、仕事の特性(仕事のストレスや主観的な仕事のパフォーマンスなど)、ワーク・ライフ・バランス(婚姻状況や仕事と家庭のバランス)、社会活動(知人と関わる頻度や親しい友人の数など)の計17項目とした。
仕事のパフォーマンス低と自己評価の男性/親しい友人が少ない女性、問題飲酒多い傾向
分析の結果、問題飲酒の割合は男性で24.3%、女性で10.3%だった。男性では、家庭が原因で仕事に影響がある人は、ない人に比べて1.54倍、仕事が原因で家庭に影響がある人は、ない人に比べて1.63倍、主観的な仕事のパフォーマンスが悪い人は、良い人に比べて1.34倍、問題飲酒が多いことが明らかとなった。女性では、仕事が原因で家庭に影響がある人は、ない人に比べて2.45倍、親しい友人が少ない人(同研究では、3人未満とした)は、多い人(3人以上)に比べて1.59倍、問題飲酒が多いことが明らかとなった。
今後、コロナ禍前後での飲酒習慣の違いなど分析へ
同研究で明らかとなった要因を考慮することで、職場において労働者を問題飲酒から守ると共に、労働環境の悪循環の改善を図るための取り組みが適切に行われようになることが期待される。なお、同研究で分析に使用したデータは2014年のものであり、コロナ禍前のものだ。コロナ禍に伴うストレスや在宅勤務等により、飲酒量が増加したという報告がある。そのため、今後は、コロナ禍前後での飲酒習慣の違いやそれをふまえて縦断的にデータの分析を継続することで、労働者の問題飲酒のリスク要因の特定を図る、と研究グループは述べている。
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・富山大学 プレスリリース