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医師-患者間の認識ギャップ、「患者報告指標」の活用で改善する可能性-慶大ほか

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2024年03月14日 AM09:30

患者の症状や健康状態を問診では十分に把握できていない?

慶應義塾大学は3月11日、心房細動患者および担当医を対象に行った観察研究の結果、患者が報告する症状、および健康状態(身体活動、治療に対する不安、生活の質)と医師の認識にギャップがあり、症状の把握および治療の最適化のために「(Patient-Reported Outcome:PRO)」が有用であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学()教室の池村修寛研究員、香坂俊専任講師、高月誠司准教授、家田真樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」 オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

生活様式の欧米化や高齢化社会に伴い、心房細動は増加の一途を辿っている。心房が痙攣を起こす心房細動は、不整脈の一種で直接命に関わる病気ではないが、これにより心房内の血液の流れが滞ると心房内に血栓が出来やすくなり脳梗塞のリスクとなる。また、動悸、息切れなどの症状を伴うことが多く、それにより健康状態(Health Status:身体活動、疾患・治療に対する不安、生活の質[Quality of Life:QOL])を害することが知られている。

心房細動の治療は、心房の痙攣を抑える抗不整脈薬や脈拍数を調節する薬剤を使った薬物治療が一般的であるが、近年、これに加えて、不整脈を根治するカテーテルアブレーション治療が盛んに行われるようになった。治療法の選択に関しては、症状の有無や年齢、罹病期間、併存疾患などの評価を行い、それぞれの治療のメリット・デメリットを医師が提示した上で、患者の価値観に最も適した治療法が選択される(協同意志決定:Shared Decision Making)。 適切な治療法を選択する上で、心房細動による患者の症状および健康状態に与える影響は重要な要素と考えられている。従来から医師は問診・対話によりそれらを捉えてきたが、現場では時間の制約や患者の遠慮などのさまざまな要因で、医師が正確に把握できていない可能性があった。

心房細動特異的なPRO「」を用い、患者・医師の評価を比較

研究グループは、慶應義塾大学病院、東京医療センターと協力し、心房細動の症状やその長期的影響に関して、患者報告と医師の認識にギャップがあるかどうか、ギャップがあった場合にそれが治療選択にどう影響するかを検証した。患者側の報告はAFEQTという心房細動に特異的な患者報告指標(PRO)を使用した。なお、そのAFEQTを収集する際に、外来担当医師にも同様の指標の評価をお願いし、両者を直接比較した。

研究グループは以前から「KiCS-AF」(Keio interhospital Cardiovascular StudiesAtrial Fibrillation)レジストリ研究という、日本における心房細動の大規模な実地臨床データの集積と解析を行なっており、今回の研究はその豊富な臨床データを基に計画された。KiCS-AF レジストリ研究は、慶應義塾大学病院およびその関連の約20の医療施設から、計3,333人の心房細動患者を登録し、5年間の経時観察により、心房細動の病院受診者の背景、その治療の実態調査、および質問紙を用いた健康状態の評価を行い、その結果を報告している。

新規患者対象の調査で医師による過小評価12.7%、過大評価53%

330人の新規に通院を開始した心房細動患者を対象に調査を行ったところ、112人(33.9%)の患者報告と担当医師の認識は一致したものの、42人(12.7%)の患者が訴えた症状および健康状態に与えた影響は担当医師により過小評価(under-estimation)、また176人の患者では訴えが担当医師により過大評価(over-estimation)されており、患者の症状および健康状態の報告と医師の認識に不一致があることがわかった。これらの例では心房細動が患者に与えた影響を医師が正しく認識していなかった可能性が考えられた。

過小評価群は、認識が一致した群に比べ、積極的治療を受ける確率が約60%低い

さらに、その認識の不一致が一年後の患者の健康状態に与える影響を調査したところ、under-estimationの患者群では、医師が正しく心房細動の影響を認識していた群と比較して、一年後の症状および健康状態に関するスコアが改善しづらいことがわかった。さらに解析を進めた結果、under-estimationの患者群では医師が正しく心房細動の影響を認識していた群と比較して抗不整脈薬の使用やカテーテルアブレーションの実施などの積極的な治療を受ける確率が約60%低く(調整オッズ比 0.43,95%信頼区間 0.20-0.90)、問診での健康状態のunder-estimationが治療方針の決定に及ぼす影響が示された。

患者報告指標を診療に取り入れ、より患者のニーズに沿った治療を

今回の結果から、問診において医師が患者に寄り添う努力を行うことの重要性が再認識されると共に、医師の問診に加えAFEQTのような患者報告指標を診療に取り入れ、患者の声を直接医師に届けることで、より医師-患者間のコミュニケーションが円滑となり、患者のニーズに沿った治療を提供できる可能性を提示した。「研究成果は、臨床データの蓄積・解析により得られた知見を診療に活かすことで、より患者のニーズに沿った医療を提供できることを示している。(Precision Medicine)の時代を迎え、こうした知見はより重要性を増していくことが考えられる」と、研究グループは述べている。

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