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妄想の強さや結論への飛躍に「脳領域間の結合性」が関与-愛知医科大ほか

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2024年03月11日 AM09:30

結論への飛躍、線条体を含めた脳領域ネットワークの協調が崩れるために起こる?

東京医科歯科大学は3月6日、線条体と楔前部の間の結合性(結びつきの強さ、活動の同期性)が、結論への飛躍・妄想の強さと相関することを明らかにしたと発表した。この研究は、愛知医科大学医学部精神科学講座の宮田淳教授、京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)の村井俊哉教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学の髙橋英彦教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

妄想とは「誤った、強く確信された、訂正が困難な考え」のことで、統合失調症や妄想症などで見られる一般的な精神症状だ。「自分は監視されている、盗聴されている」などの被害妄想の形をとることが多く、患者に強い苦痛をもたらすため、より効果的な治療法の確立が望まれている。

妄想を持つ患者は健康な人に比べ、より少ない情報に基づいて結論を下す「結論への飛躍(jumping to conclusions)」と呼ばれる認知的な傾向があることが知られており、このために誤った考えに至りやすく、これが妄想の形成しやすさを説明するメカニズムと考えられている。一方、健康な人の場合は反対に、結論を下すためには客観的な確率が示すよりも多くの情報を要するという「保守性バイアス(conservatism bias)」と呼ばれる傾向が知られている。結論への飛躍と保守性バイアスに関わる脳神経領域を探る研究がこれまで行われてきたが、はっきりした結論には至っていなかった。

統合失調症患者では、脳の線条体と呼ばれる部分でドーパミンの働きが、軽度だが上昇しており、それを抑えるために抗精神病薬が治療に使われる。このことから、結論への飛躍と線条体とが関係していることが想定されるが、これまでそれを示した研究は存在しなかった。研究グループは、結論への飛躍および保守性バイアスに関わるのは脳のどこか1つの領域ではなく、線条体を含めた複数の領域から成るネットワークであること、そしてネットワークの協調が上手くとれないことが結論への飛躍と関係すると考え、結論への飛躍の強さとネットワークの結合性との関係を調べた。

線条体と楔前部の間の結びつきが妄想の形成・重症度と相関、世界初の発見

研究では、統合失調症を持つ患者37人と、比較対象として健康な人33人に参加してもらい、「結論を下すまでにどれだけ多くの情報量を必要とするか」を測定する実験を行った。この実験では、情報量が少ないと結論への飛躍が強い、多いと結論への飛躍が弱い(保守性バイアスが強い)ということになる。また脳のネットワークの結合性を見るため、安静時の機能的MRIを実施し、独立成分分析を用いることで、線条体を含めた主要な脳領域から成るネットワークの結合性を推定した。

その結果、線条体と楔前部と呼ばれる領域の間の結合性が負の関係であるほど、つまり、お互いの活動がシーソーのように逆であるほど、結論への飛躍が強いことが判明。また、患者では線条体と楔前部との間の結合性が負であるほど、妄想が強いことも明らかになった。同研究により、妄想の形成に関わる認知神経メカニズムが初めて示された。

抗精神病薬に不応性の妄想に対する新規治療法の開発を目指す

今回の研究は、比較的少数の参加者を対象とした探索的な研究であるため、より多くの参加者を対象として同研究結果が再現されることを確認する必要がある。現在、抗精神病薬が妄想および統合失調症の治療の中心だが、効果が薄い、あるいは認められない場合もしばしばある。一方、近年ではfMRIや脳波を用いて、自分の脳活動や脳領域間の結合性をモニタリングしながらそれを変化させる練習をすることで、薬物療法が無効な症状を改善させる「」という新しい治療法の研究が進んでいる。

「今後、本研究の結果がより多くの参加者で再現されれば、線条体と楔前部の間の結合性を標的とするニューロフィードバック研究を実施し、抗精神病薬に不応性の妄想に対する新しい治療法を開発し、患者に提供できるようにしたいと考えている」と、研究グループは述べている。

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