除菌後の胃の形態変化で、早期胃がんの発見が困難になる可能性が指摘されていた
秋田大学は3月5日、秋田県内11の医療機関との共同研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌に対する除菌治療が、胃がんの臨床経過に悪影響を与えないことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器内科学・神経内科学講座の渡邊健太特任助教、飯島克則教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancers」にオンライン掲載されている。
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日本を含む東アジアは世界で最もピロリ菌感染、胃がんが多い地域であり、ピロリ菌除菌および定期内視鏡検査による胃がん予防効果について関心が高い地域だ。ピロリ菌の除菌治療は46%の胃がん発症の抑制効果があることが知られている。一方で、除菌後には胃の形態変化(発赤陥凹の散在、胃炎様外観、低異型度上皮による腫瘍表面の被覆など)のために、早期胃がんの発見が困難になる可能性が指摘されており、定期検査を受けているにもかかわらず、見逃し胃がんが増加する可能性が懸念されている。
これらのことから、除菌治療が胃がん予防に実質的に貢献しているか否かについては議論がある。日本では2年ごとの対策型胃内視鏡検診が推奨されているが、研究グループは、この検診間隔で除菌治療が胃がん予防として有効に作用するか否かについて明らかにするため、研究を行った。
除菌治療は胃がんの深部浸潤に有意に関連せず、結果は不変
研究ではまず、秋田県内11の健診医療機関における全ての上部消化管検査実施症例の中から、胃がんの診断がなされた全ての症例を登録。傾向スコアマッチングという統計手法で、ピロリ菌陽性群とピロリ菌除菌群の患者背景を揃えたデータセットを作成した。さらに、胃がんの形態、胃内の局在、組織型、検査間隔を考慮して、ピロリ菌除菌が深部浸潤胃がんに関連しているか否かを調査した。
その結果、除菌治療は胃がんの深部浸潤には有意な関連はしていないことが明らかになった。また、除菌後経過期間を変えて除菌後群を定義した感度分析においても、結果は不変だったとしている。
除菌治療が胃がん診断遅れに関与しないことを示唆する結果に
今回の研究により、これまで結論が出ていなかったピロリ菌除菌の胃がんの臨床経過への影響について、多施設の胃内視鏡健診コホートを用いて、悪影響を及ぼさないことが明らかにされた。
「本研究によって、現行のピロリ除菌療法は、2年間隔の胃内視鏡検診プログラムにおいて、診断遅れを生じることなく胃がん症例を減少させるために有効であることを実証した」と、研究グループは述べている。
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・秋田大学 プレスリリース