単一遺伝子の変異による重症アレルギー疾患が存在の可能性
国立成育医療研究センターは3月4日、STAT6遺伝子の機能獲得型変異が原因となる重症アレルギー疾患の病態メカニズム、臨床的特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター免疫アレルギー感染研究部/アレルギーセンターの森田英明室長、消化器科の新井勝大診療部長、竹内一朗医師、ゲノム医療研究部の要匡部長、柳久美子室長、好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループと、カナダ、米国、タイ、中国、トルコ、フランス、オランダの研究者が共同で実施したもの。研究成果は「Trends in Immunology」に掲載されている。
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アレルギー性疾患は、一般的に環境要因を含むさまざまな外的な要因と、遺伝的素因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられている。一方、近年の遺伝学および解析技術の発展にともない、生後早期から発症する疾患や重症の炎症を伴う疾患の中には、たった1つの遺伝子の異常で発症する「単一遺伝子疾患」が存在する可能性が示唆されるようになった。
STAT6遺伝子の機能獲得型変異を有する患者13家系・21例を解析
同センターはこれまでに、重症アレルギー疾患におけるSTAT6遺伝子の変異(p.Asp419Asn)を、2022年に全エクソーム解析によって発見し、STAT6遺伝子を原因とする新たな単一遺伝子疾患として提唱。同時期から世界中で、STAT6遺伝子の機能獲得型変異を有する患者が相次いで報告され、全世界で21症例の患者が存在することが明らかになっている。STAT6は、細胞質内に存在するシグナル伝達物質で、インターロイキン(IL)-4などの刺激によってリン酸化されると、細胞核内へ移行して、アレルギー性の炎症を引き起こす遺伝子群の転写を活性化する。
研究グループは今回、STAT6機能獲得型変異が原因となる重症アレルギー疾患について、13家系・21例のSTAT6機能獲得型変異疾患の患者(小児および成人)の特徴を解析し、その病態メカニズムや臨床的な特徴を明らかにする研究を実施した。
生後早期に難治性アトピー性疾患発症、末梢血好酸球数や血清IgE高値などの共通点
解析の結果、生後早期に難治性アトピー性皮膚炎を発症すること、また末梢血中の好酸球数増加や高IgE血症が認められた。また、高い確率で食物アレルギーや好酸球性消化管疾患を発症することも明らかになった。内視鏡所見では通常の好酸球性消化管疾患と比較して、消化管のリンパ濾胞過形成が目立って認められた。これらの特徴は、STAT6機能獲得型変異疾患を疑う重要な手がかりになると考えられた。
STAT6遺伝子で11の変異を同定、全て正常機能維持に重要な部位のミスセンス変異
遺伝子変異の種類を調べたところ、STAT6遺伝子の機能獲得型変異として同定された11種類の遺伝子変異はいずれも、STAT6分子が正常に機能するために重要な部位のミスセンス変異であることがわかった。たった1つのアミノ酸の変化であるが、STAT6分子の機能を調整するリン酸化・脱リン酸化のバランスや、核内への移行性が変化することで、STAT6分子の転写活性が異常に活性化し、結果として免疫細胞であるTh2細胞を中心とするアレルギー性の炎症などが引き起こされることが考えられた。
生後早期に重症アレルギー症状を有する患者、別の単一遺伝子疾患も存在の可能性
研究によって世界中に存在するSTAT6遺伝子の機能獲得型変異を原因とする重症アレルギー疾患患者の特徴が明らかになった。重症アレルギー疾患が、たった1つの遺伝子の変異で発症するという概念は、新しい概念で認知度は高くなく、世界中に診断されていない患者が多く存在する可能性がある。今回明らかになった臨床的特徴を元に、特徴が類似する患者の遺伝子解析を進めることで、多くの患者が同疾患と診断されることが見込まれる。また、治療法も確立されていないため、症例を集積し解析していくことで、有効な治療方法の開発につながることが期待される。
さらに、生後早期に重症なアレルギー症状を有する患者の中には、STAT6機能獲得型変異以外にも、単一遺伝子疾患が存在する可能性がある。原因がわかることで、病態に応じた治療戦略・治療法の開発への道が開け、子どもたちの健全な発育・発達につながる可能性がある。「今後も、日本全国に存在する重症アレルギー疾患患者を対象として、遺伝子解析研究を進めていきたい」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース