採血前にドナーが摂取していた食品が、ATR発生に関連?
信州大学は2月26日、食物アレルギーの人に輸血が行われる際、採血前にドナーが摂取した食品が原因となってアレルギーが引き起こされる可能性があることを見出したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院輸血部の柳沢龍准教授、長野県立こども病院生命科学研究センターの戸塚実研究員、長野県立こども病院小児アレルギーセンターの伊藤靖典センター長(生命科学研究センター研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」にオンライン掲載されている。
アレルギー性輸血副反応(Allergic transfusion reaction:ATR)は、最も高頻度に発生する輸血の副反応であることが知られているが、原因や発症機序に関しては、まだほとんど明らかにされていない。また近年、小児は成人に比べATRを発症する頻度が高いことが複数の国から報告されているが、その理由も不明だ。
一方、ピーナッツアレルギーの症例にピーナッツを食べたドナーの血液を輸血したところ、重篤なアレルギー反応を発症したことが海外から報告されている。したがって、食物アレルギーがある人に輸血を行う際、採血前にドナーが関連する食品を摂取していた場合には、アレルギー症状が引き起こされるのではないかという懸念が生じる。また、食物アレルギーは主に小児領域で問題となることが多く、食物アレルギーがATRの発症にも関連していることから、小児のATR発症頻度が高いのではないかと推測できる。しかし、これらを説明できるような医学的根拠はまだ示されていない。
食物アレルギー児の好塩基球、該当の食品を摂取した人の血液で活性化
研究グループは、3種類の食物(卵・牛乳・小麦)に対して食物アレルギーと診断されている小児の好塩基球と、該当食品を摂取する前後で採血をした健常人の血液を用いた好塩基球活性化試験を実施した。
その結果、卵アレルギー症例の好塩基球は、卵摂取前と比べて卵摂取後の血液によって明らかに活性化することが確認された。この現象は、血液中の卵に対する特異的IgE抗体(1型アレルギー反応を引き起こす免疫グロブリン)が高い症例やアナフィラキシーの既往がある症例で、より明確だった。また、同様の現象は牛乳や小麦アレルギーの症例においても確認されたとしている。
ATRの原因解明で、より安全な輸血療法の確立に期待
輸血はさまざまな医療現場において必要とされながら、多くの人が輸血によるアレルギーの不利益にも悩まされているのが実情だ。今回の研究結果は、これまで不明点が多かった輸血によるアレルギーの解明に大いに役立つ可能性がある。
「本研究結果を通じて、これまで明らかにされてこなかった輸血によるアレルギーの解明が今後さらに進み、将来的に、より安全な輸血療法が確立されることが期待できる」と、研究グループは述べている。
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