小児と異なる症状、潜在的に相当数存在と海外報告
草加市立病院は2月29日、魚介類アレルギーのあると申告した成人を対象に、食物蛋白誘発性胃腸炎(Food protein induced enterocolitis syndrome:FPIES(エフパイス))の割合や臨床的特徴、魚介類の詳細な摂取状況について調査を行い、その結果を発表した。この研究は、同院消化器内科の渡辺翔医長、国立成育医療研究センター好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergology International」に掲載されている。
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FPIESは胃腸炎症状(強い腹痛、吐き気、嘔吐、下痢)を引き起こすが、食物に対するIgE抗体検査は陰性となる消化管アレルギー。一般の食物アレルギーと異なり皮膚や喉、呼吸の症状は起こさず、食後1時間以上経過してから胃腸炎症状が出るため、診断が難しいという特徴があり、小児での患者数増加が注目されている。海外では、成人FPIESが潜在的に相当数存在すること、魚介類が原因として多いことが報告されているが、食物アレルギーが疑われないため適切な診断を受けられないことが大きな問題となっている。さらに成人FPIESは小児で多い反復嘔吐が少なく、特徴的な腹部症状に関する知見が乏しいことも診断を困難にする要因の一つだ。そこで研究グループは、成人FPIESの有病率、特徴的な症状、魚介類の摂取状況を明らかにすることを目的に調査を行った。
魚介類アレルギーがあると申告した成人を対象に調査
草加市立病院において魚介類アレルギーがあると申告した成人(117人)を対象に、FPIES診断基準や症状、魚介類摂取状況に関して電話インタビューを行った。成人FPIES診断基準は、海外の研究報告をベースに、一部小児FPIES国際ガイドラインの要素を加えて決定した。具体的には下記5条件を満たすものを成人FPIES例と定義した。
1:原因食材の摂取で腹部の症状のみ(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢症状)誘発される
2:原因食材摂取後、1~6時間経過してから症状が出現する
3:原因食材除去により症状は完全に消失する
4:原因食材の食材摂取により2回以上発作を経験している
5:以前、原因食材を無症状で摂取できていた
18.8%がFPIESの可能性、原因魚介類の最多は貝類で加工・加熱でも症状
その結果、22人(18.8%)がFPIESであると考えられた。これは、魚介類アレルギーがある成人の中にFPIESが潜在的に相当数存在することを示唆している。FPIESの原因魚介類で最多は貝類(45.4%、特に牡蠣)で、揚げ物などで加熱しても、オイスターソースなどへ加工しても症状が出ていた。魚介類の摂取状況を調べたところ、多くの成人FPIESの原因魚介類は一部だけであり、他の多くの魚介類は摂取可能だった。
特徴的な症状、腹部の張り81.8%、頻回の嘔吐59.1%
また、特徴的な症状として腹部の張り(81.8%)があり、排出(嘔吐や排便)により楽になりたいと訴えていた。その他、腹痛(63.6%)、頻回の嘔吐(59.1%)や下痢(54.5%)などもあった。反復嘔吐を特徴とする小児FPIESは近年報告数が増加しているが、今回の調査により成人FPIESは反復嘔吐が少なく、腹部の張りや強い腹痛をはじめとした、重篤な腹部症状をきたすことわかった。
「成人FPIESは、重症の胃腸炎症状を繰り返す上に診断までに長い時間がかかるため、医療体制の構築が急務だ。今回の調査で明らかになった成人FPIESの臨床的特徴は、成人FPIESのガイドライン作成や救急医療における診断アルゴリズムの策定に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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