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肝硬変患者、「1分間に答えられる動物の名前が11以下」で転倒リスク高-岐阜大

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2024年03月04日 AM09:30

欧州推奨のANT、日本では神経機能と転倒・転倒に伴う骨折の関連検討が不十分だった

岐阜大学は2月29日、肝硬変患者における転倒および転倒に伴う骨折の実態とアニマルネーミングテスト(Animal naming test:ANT)で評価した神経機能との関連を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器内科学分野の清水雅仁教授、三輪貴生医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

転倒と転倒による骨折は一般的な医療問題であり、移動能力の低下、それに伴う医療費の増加、予後と関連している。2017年には世界で60万人以上が転倒をきっかけに死亡したと報告されており、転倒を未然に予防することは喫緊の課題と考えられる。転倒の一般的なリスク因子には、高齢、神経筋疾患、鎮静薬の使用、下肢筋力低下などがあげられるが、さらに肝硬変患者ではサルコペニア、フレイル、および肝性脳症も転倒につながることがある。

従来、肝性脳症の検査法としてさまざまな診断ツールが用いられており、その一つであるANTは「1分間に回答できる動物の数」により評価する神経機能検査だ。検査に必要な時間が短いことや検査機器が必要ないことから、欧州肝臓学会で推奨されている唯一の肝性脳症の簡易検査法である。しかし、日本におけるANTの検討は不十分であり、特に、ANTの結果と転倒・転倒による骨折との関連については検討されていなかった。

日本の肝硬変患者94人のうち転倒19%、転倒に伴う骨折5%

今回の研究では、日本の肝硬変患者94人を対象に、過去1年間の転倒および転倒による骨折の既往の実態と、ANTで評価した神経機能との関連について検討した。参加者の年齢中央値は72歳、30%が女性だった。そのうち過去1年間の転倒は19%、転倒に関連した骨折は5%の患者で認めた。

研究の結果、肝硬変患者の約2割が転倒しており、転倒した患者の4人に1人は骨折していることが明らかとなった。したがって、転倒の高リスク患者を同定し、骨折とそれに伴う生活の質の低下を予防することが必要であることが示唆された。

「ANT11以下」患者、11より高と比較して有意に転倒・骨折が多い

次に、肝硬変における転倒とANTとの関連について検討。転倒した患者は転倒のない患者と比較してANTで回答できた動物の数が有意に少ないという結果だった(18vs.11; p<0.001)。また、転倒に伴う骨折に関しても骨折既往のある患者はそうでない患者と比較して、ANTで回答できた動物の数が有意に少ない結果だった(16vs.8; p<0.001)。Receiver operating characteristic 解析では、転倒あるいは転倒に伴う骨折に関連するANTのカットオフとして11点が抽出され、11点以下の群では11点より大きい群と比較して有意に転倒(56%vs.11%; p<0.001)と転倒に伴う骨折(28%vs.0%; p<0.001)の割合が高いことが明らかとなった。

ANT結果、年齢やフレイルなど既知リスク因子とは独立した転倒関連因子

転倒に関連する因子について多変量解析を行うとANT(オッズ比0.78; 95%信頼区間0.65-0.93)、女性、フレイルの指標であるKarnofsky performance statusが独立して転倒に関連する因子だった。また転倒に伴う骨折に関してもANT(オッズ比0.78; 95%信頼区間0.65-0.93)が有意な因子だった。この結果から、ANTの結果は年齢やフレイルなどといった既知のリスク因子とは独立した転倒に関連する因子であることが明らかとなった。

また、ANTは年齢と独立して転倒に伴う骨折に関連する因子だった。つまり、ANTの結果が悪いと転倒や転倒に伴う骨折を経験する確率が高いことが明らかとなり、ANTを評価することで転倒や転倒に伴う骨折のリスク評価に有用である可能性が示唆された。

肝硬変患者におけるANT結果に影響を与える因子として年齢・教育年数

続いて、日本において肝硬変患者におけるANTの有用性は検証されていないため、ANTの結果に関連する因子について検討を行った。重回帰分析では、年齢、教育年数がANTの結果に影響を与える因子であることが明らかになり、一方で回答する際に干支を使用したかどうかは有意な因子ではなかった。ANTは、肝性脳症を評価するための簡易な神経機能検査として世界で標準的に使用されているが、今後、日本においてANTを標準化するにはこれらの因子を加味したカットオフ値の設定が必要であることが示唆された。

肝硬変患者の転倒リスク評価・予防への寄与に期待

以上のことから、年齢中央値72歳の肝硬変患者において19%が転倒歴、5%が転倒に伴う骨折歴を有し、転倒や転倒に伴う骨折歴のある者はそうでない者と比較してANTで評価した神経機能が低下している可能性が高いことが示された。ANTは、肝性脳症の標準的な検査法であり、ANTに基づく転倒予防の生活習慣指導や肝性脳症の評価及び治療に伴う転倒リスクの軽減につなげる必要があることが示唆された。また、同研究により日本の肝硬変患者におけるANTの検査結果に影響する因子が示され、今後、日本の肝硬変患者に対してANTを標準化していく上での課題も明らかとなった。肝硬変患者における転倒や転倒に伴う骨折の実態とANTで評価した神経機能の関係が明らかになり、転倒リスクの評価や転倒予防に寄与することが期待される、と研究グループは述べている。

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