急性GVHD予防のため開発されたハプロ移植法、予後改善効果は認められるが患者ごとのATG投与量設定が困難だった
兵庫医科大学は2月26日、HLA半合致同種造血幹細胞移植(ハプロ移植)を施行されたハイリスク造血器悪性腫瘍患者を対象とした研究で、造血幹細胞移植日の血中抗ヒト胸腺免疫グロブリン(ATG)濃度が急性移植片対宿主病(GVHD)の発症リスクに影響を与えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部呼吸器・血液内科学の寺本昌弘助教、ミネソタ大学薬学部臨床薬理部/ボストン小児病院小児造血幹細胞移植科の高橋卓人医師、同志社女子大学薬学部臨床薬学研究室の松元加奈准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Hematology」に掲載されている。
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研究グループは以前より、非寛解状態のようなハイリスク造血器悪性腫瘍に対するハプロ移植法の開発に取り組んできた。研究グループが開発したハプロ移植法は、同種造血幹細胞移植の代表的な合併症である急性GVHDの予防のために、ステロイドと少量のウサギ由来ATGを用いることが特徴である。これにより、急性GVHDの重症化を抑制できる一方で、ドナーのT細胞による抗腫瘍効果をより強く誘導することができる。しかし、ATGは個体間の薬物動態の変動が大きい薬剤であり、従来の患者実体重に基づく投与量設計では、患者ごとに適切な投与量を設定することが困難だった。
GVHD予測に最適なATG濃度パラメーター目標値を決定、さらに患者の理想体重を組み込んだATG投与量計算式を開発
今回、開発したハプロ移植法におけるATGの投与量の個別最適化を検討した。2014年から2019年にかけて、研究グループが造血器悪性腫瘍に対しステロイドと少量ATGを急性GVHD予防に用いたハプロ移植を行った症例を後方視的に解析した。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって患者血清中の総ATG濃度を測定し、得られた濃度データと患者の臨床情報を基に、ATGの血中濃度パラメーターと急性GVHD発症の関連性に関する解析(曝露-反応解析)を行い、急性GVHDを予測するための最適な濃度パラメーターの目標値を決定した。さらにシミュレーションによって、濃度パラメーターの目標値を達成するための、ATGの投与量計算式を検討した。研究グループは母集団薬物動態モデル解析により、患者の理想体重がATGの薬物動態に影響を与えることを先行研究で確認していたため、ATGの投与量計算式には理想体重を組み込んだ。
Grade2-4急性GVHDの発症リスク、血中濃度≧20.0µg/mLを境に二分
合計103例が解析対象となり、造血幹細胞移植前に合計2.5~3.0mg/kg(実体重)のATGが投与されていた。原病が非寛解状態での移植を施行された症例は91例(88%)だった。この患者集団において、Grade2-4急性GVHDの発症リスクは、造血幹細胞移植日の血中濃度≧20.0µg/mLであることを境に有意に二分されることがわかった。アウトカムに対する多変量解析においても、造血幹細胞移植日の血中濃度≧20.0µg/mLを達成した群は達成しなかった群と比較して、急性GVHDの累積発症率、全生存率、無再発生存率が有意に優れていた。従って、研究グループのハプロ移植法において、達成されるべきATGの目標血中濃度は、造血幹細胞移植日の血中濃度≧20.0µg/mLであることがわかった。
この目標値を基に、ATGの投与量をシミュレーションしたところ、造血幹細胞移植前に合計3.0mg/kg(理想体重)のATGを投与することにより、シミュレーションの80%で造血幹細胞移植日の血中濃度≧20.0µg/mLが達成できた。
他の移植条件においても、ATG投与量の最適化できるか検討予定
研究グループは、ELISAによるATGの血中濃度測定を利用し、ATGの血中濃度と急性GVHDの発症リスクの関連性を明らかにした。また、ハイリスク造血器悪性腫瘍に対するハプロ移植において、造血幹細胞移植日のATGの血中濃度が急性GVHDの発症率、全生存率、無再発生存率に影響を与えることも示した。理想体重に基づいたATGの投与量設定を行うことで、ステロイドと少量ATGを用いたハプロ移植における急性GVHDのリスクが減少し、ハイリスク造血器悪性腫瘍患者の生存が改善する可能性が考えられる。
「本研究におけるATG投与量設計のプロセスは、あくまで研究グループが開発したハプロ移植法にのみフィットするものであり、ATGはハプロ移植以外の同種造血幹細胞移植でも使用されるので、今後は他の移植条件においても、ATG投与量の最適化ができるかを検討したいと考えている」と、研究グループは述べている。
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