オンライン診療は対面診療の代替手段となり得るか?
慶應義塾大学は2月20日、神経発達症児とその養育者に対するAttention-Deficit Hyperactivity Disorder Rating Scale-IV(ADHD-RS-IV)のオンライン診療を用いた遠隔評価の信頼性を検証し、対面評価と高い一致度を示すことがわかったと発表した。この研究は、同大医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座の岸本泰士郎特任教授と同精神・神経科学教室の黒川駿哉特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medical Internet Research」に掲載されている。
日本では児童精神科医の不足が深刻な問題となっており、特にADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)などの神経発達症を有するまたはその疑いがある児童の診断と治療において、適切な医療サービスの提供が難しい状況が続いている。このような背景の中で、オンライン診療が重要な代替手段として期待されている。しかし、これまでに神経発達症の児童に対する遠隔評価の信頼性の検討は少なく、対面での評価と比較した信頼性の検証が必要とされていた。
ADHDを主診断とする患児におけるICCは0.816と高い精度で一致
研究では、ADHDの診断基準に準拠した、具体的な症状の頻度と重症度を評価するために重要なツールである「ADHD-RS-IV」を用いた。この評価方法は、診断の補助に用いられることや、治療効果の判定に用いられることもある。対象者は、ADHDまたはASDの診断を受けた6~17歳までの74人の日本人児童・思春期の子どもおよびその養育者で、対面評価と遠隔評価の両方を受けた。オンライン診療システムは株式会社MICINが提供する「curon(クロン)」を使用した。
その結果、遠隔評価による評価は対面評価と高い一致度を示すことが示された。具体的には、被験者全体ではICC=0.769;95%信頼区間0.654-0.849;p<.001、ADHDを主診断とする患児においてはICC=0.816;95%信頼区間0.683-0.897;p<.001であることが示された。
初診までの待機期間短縮や養育者の負担軽減に期待
この研究結果は、オンライン診療が児童思春期を対象とする精神医療分野においても有効な手段であることを示すものだ。2022年の文部科学省の調査で、ADHD、ASDを含む神経発達症の可能性がある小中学生は8.8%に上ると報告されるなど、早期診断、治療を含む対策は非常に大きな社会課題になっている。一方、診断や専門的治療にあたる児童精神科医は日本全体で著しく不足しており、2020年の厚生労働省の調査によると初診までの待機期間は平均2.6か月、長い場合は54か月かかるとされている。また、神経発達症のお子さんをもつ養育者には、日常生活・学校生活に対するケアに加えて、仕事を休まなければならないなど通院の付き添いに著しい負担がかかっている。
「オンライン診療の有効な活用によって、初診までの待機期間の短縮や通院時間・待ち時間の削減、さらには医療周辺コストの削減など、患児や養育者にとって多大な利益がもたらされることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース