フードリテラシーと食事の質の研究、評価が限定的で全貌は明らかでなかった
東京大学は2月21日、フードリテラシーが高い人ほど、1日全体の食事の質、朝食の質、昼食の質および夕食の質が高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、同大研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任助教、同大研究科医療コミュニケーション学分野の奥原剛准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Appetite」に掲載されている。
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不適切な食事摂取は、1年あたり1100万人の死亡(総数の22%)の原因であると推定されている。このため、食事の質に関連する要因の解明は、世界的な最優先課題の一つだ。このような背景のもと、フードリテラシーという概念に注目が集まってきた。フードリテラシーの定義は数多くあるが、最も広く引用されているのはVidgenとGallegosによって提唱されたものであり、フードリテラシーは「食品に関するニーズを満たし、摂取量を決定するに際して、計画・管理・選択・準備・摂取するために必要な、相互に関連した知識・技術・行動の集まり」とされている。
フードリテラシーと食事の質との関連についての研究は、欧米諸国を中心に世界各地で行なわれてきた。しかし、いずれの研究でも、フードリテラシー、食事の質あるいはその両者の評価が限定的であり、その全貌は明らかになっていなかった。
日本人5,998人を対象に、フードリテラシーと食事の質の関連を包括的・網羅的に検討
今回の研究では、一般の人々を対象としたオンライン質問票調査を実施し、フードリテラシーと食事の質との関連を包括的かつ網羅的に検討することにした。今回の横断研究は、2023年2~3月にオンライン質問紙調査に参加した20~79歳の日本人成人5,998人を対象とした。フードリテラシーの評価は、オランダで開発された29項目からなる妥当性が検証された質問票の英語版を日本語に正確に翻訳したうえで用いた。合計点は1~5点の間となり、スコアが高いほどフードリテラシーが高いことを表す。食事摂取量の推定には、妥当性を検証済みの食習慣質問票のMDHQ(Meal-based Diet History Questionnaire)の短縮版を用いた。食事摂取量データをもとにして、健康食インデックス(Healthy Eating Index)を1日全体の食事、朝食、昼食および夕食のそれぞれについて算出。同スコアが取り得る範囲は0~100点で、スコアが高いほど食事の質が高いことを表す。参加者の平均年齢は46.8歳(標準偏差:15.1)。フードリテラシースコアの平均値は3.18(標準偏差:0.43)。食事の質スコアの平均値は、1日全体では50.4(標準偏差:7.5)、朝食では41.8(標準偏差:16.3)、昼食では43.2(標準偏差:11.2)、夕食では52.6(標準偏差:8.9)だった。
フードリテラシーと食事の質、統計学的に有意な正の関連
フードリテラシースコアをもとに参加者を4群に分けた場合、下位25%(1,499人)と比べたときの食事の質スコアの差を25-50%群(1,514人)、50-75%群(1,474人)および上位25%群(1,511人)として示した。性や年齢、教育歴など、食事の質と関連することが先行研究で明らかになっている因子を統計学的に調整した後、フードリテラシーと食事の質との間に統計学的に有意な正の関連が見られた。すなわち、フードリテラシーが高い人ほど、1日全体の食事の質、朝食の質、昼食の質および夕食の質が高いことが明らかになった。
フードリテラシーと食事の質との関連、男性より女性が強い
続いて、男性と女性に分けて、また栄養・健康関連以外の職種と栄養・健康関連職種に分けて解析。フードリテラシーと食事の質との関連は、一貫して女性のほうが男性よりも強いことがわかった。一方、栄養・健康関連以外の職種と栄養・健康関連職種におけるフードリテラシーと食事の質との関連には、一貫した違いはないことがわかった。
全ての食事の質に関連したのは、食品の準備技術/健康的な間食スタイル/健全な食費
今回使用したフードリテラシーのスコアには、食品の準備に関する技術、食の安定性、健康的な間食スタイル、社会規範と意識的な摂食行動、食品栄養成分表示の参照、日々の食事計画、健全な食費、健全な食品備蓄の、8つの下位尺度がある。1日全体の食事の質、朝食の質、昼食の質および夕食の質の全てと関連していたのは、食品の準備に関する技術、健康的な間食スタイルおよび健全な食費の3つだった。
今後、「間食の質」関連要因をフードリテラシーも含めて明らかに
同研究成果により、適切に食品を摂取するために必要とされる総合的な能力の指標「フードリテラシー」が高い人ほど、1日全体の食事の質、朝食の質、昼食の質および夕食の質が高いことが明らかになった。同研究成果は、一般の人々の食事の質を改善するための栄養教育のあり方や行動変容を目指した介入内容を考えるうえで重要な科学的根拠となることが期待される。今後は、今回の研究では扱えなかった間食に関して、その質に関連する要因をフードリテラシーも含めて明らかにしていくことが必要だ、と研究グループは述べている。
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