日本人の睡眠に関する問題、夜更かし傾向の定量的評価尺度が必要
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は2月16日、就寝を先延ばしする傾向を測定する尺度(Bedtime Procrastination Scale:BPS)の日本語版を開発し、信頼性と妥当性を検証したと発表した。この研究は、同センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部の栗山健一部長、羽澄恵研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Psychology」に掲載されている。
特別な用事がないにもかかわらず、意図した時刻よりも就寝時刻を先延ばししてしまう傾向は、眠りについてから目覚めるまでの時間帯(睡眠相)が遅れて極端な遅寝遅起きの状態となる睡眠相後退や、不眠、睡眠不足などに関連することが指摘されている。就寝先延ばし傾向が見られるかどうかを定量的に評価できるようになることで、こうした問題の分析が可能になる。そこで、研究グループは、BPSの日本語版開発と信頼性・妥当性の検討を行った。
日本語版BPSを開発、日勤労働者574人で妥当性を検証
原版開発者Floor M. Kroeseの許諾を得て研究グループで尺度の翻訳・逆翻訳を行った後、習慣的な睡眠不足がある100人に尺度の文章の明瞭さや理解の容易さを確認し、日本語版BPSを開発した。
次に、信頼性と妥当性を検証するために、20~65歳の慢性睡眠不足症候群以外の睡眠障害がない日勤労働者574人から日本語版BPSに有効回答を得た上で、再検査信頼性を検証するため14日後に280人から再度有効回答を得た。
日本語版では原版の項目2を除外、睡眠中央時刻の遅れや睡眠不足傾向と有意な関連
構造的妥当性を検討するために確認的因子分析を行ったところ、モデルの適合度が不十分だったため、因子負荷量が低い原版の項目2「翌朝早く起きなければならないときは、早く寝る。」を除外して2因子構造で再度分析したところ適合度が向上したため、日本語版では原版から項目2を除外することにした。再検査の信頼性や内的一貫性は、項目2を含めた場合でも除外した場合でも、十分であることが示された。
日本語版のBPSの各項目の平均点は2.72±0.87点、合計点は21.69±7.05だった。繰り返し検査を行った際は、前者では1.13点以上、後者では9.08点以上の変化が見られた際に、誤差を越えた変化と判断するのが適切と示された。BPS得点の高さは、睡眠時間の短さ、睡眠相後退を示す指標である睡眠中央時刻の遅れ、睡眠不足傾向と有意な関連を示した。また、BPS得点が高い人は終業時刻が遅く、就寝時刻を先延ばしすることへの抵抗感が薄い傾向が示された。
日本語版BPSの概要
日本語版BPSは、以下8項目からなる。各項目について、1(ほとんどない)から5(いつもある)までの数字で評価し、全項目の平均点もしくは合計点を算出する。得点が高いほど、就寝を先延ばしする傾向が強いと判断する。
1.自分が意図していたより、寝る時間が遅くなる。3.夜、明かりを消さなければならない時間になったら、すぐに消す(反転項目)。4.寝る時間になっても、他のことをしていることが多い。5.本当は寝ようと思っている時でも、すぐに他の事に気をとられてしまう。6.決まった時間に寝ない。7.決まった就寝時間があり、それを守っている(反転項目)。8.決まった時間に寝たいと思うが、できない。9.寝る時間になったら、それまで行っていた活動を容易に止められる(反転項目)。
上述の通り、原版の項目2「翌朝早く起きなければならないときは、早く寝る。」は、構造的妥当性の観点から、日本語版では除外した。
疫学調査やさまざまな睡眠障害と就寝先延ばし傾向の関連を研究予定
今回の研究から、日本の日勤労働者においては就寝先延ばし傾向が睡眠不足や睡眠相後退と関連していることがうかがわれた。「今後は、日本語版BPSを用いて、日本における就寝先延ばし傾向の疫学調査を行うとともに、就寝先延ばし傾向とさまざまな睡眠障害の関連についても明らかにしたいと考えている」と、研究グループは述べている。