細胞老化の制御で、阻血性骨壊死は治療できるのか?
名古屋大学は2月15日、特発性大腿骨頭壊死症に細胞老化が関与していることを新たに発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科整形外科学の岡本昌典医員(研究当時)、中島宏彰准教授、今釜史郎教授、同研究科顎顔面外科学の日比英晴教授、同大医学部附属病院歯科口腔外科の酒井陽助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨の骨頭部の阻血により骨壊死に生じて、壊死した大腿骨頭が潰れることで股関節機能が失われる原因不明の難治性疾患。股関節の変形に至ってしまうと手術以外に有効な治療は存在しない。日本国内では毎年約2,000~3,000人の新規患者が発生し、青・壮年に好発するため医学的にも社会学的に問題となっており、予防法の開発のため、原因解明が期待されている。
近年、加齢やDNA損傷に引き起こされる「細胞老化(cellular senescence)」が動脈硬化症、糖尿病、変形性関節症、アルツハイマー型認知症などさまざまな病気に関わっていることがわかり、注目されている。研究グループは以前、薬剤関連顎骨壊死において細胞老化の関与を解明していた。
今回研究グループは、阻血性骨壊死である特発性大腿骨頭壊死症と細胞老化との関わりを探ろうと考え、さらに、細胞老化を制御するアプローチによって阻血性骨壊死を治療できるか調査した。
壊死層だけでなく移行層も細胞老化、SASP因子も多く発現
研究グループは、特発性大腿骨頭壊死症と診断した患者から手術時に摘出した大腿骨頭の解析を行った。すると、骨頭標本が老化細胞を示すX-gal染色を行う帯状に染色にされた。この帯は大腿骨頭壊死の壊死層と健常層の境界にある移行層と一致していることがわかった。組織学的解析と遺伝子発現解析では、壊死層のみならず移行層にも細胞老化が起こっており、SASP因子も多く発現していることが判明した。
阻血性骨壊死モデル、間葉系幹細胞培養上清液の投与で細胞老化抑制/骨の圧潰予防
次に、阻血性骨壊死マウスモデル(生後12週目のマウスに大腿骨に栄養を送っている血管を焼く手術を行うことで血流を途絶えさせて骨壊死を引き起こす)に対し、手術後24時間後にヒト由来の間葉系幹細胞培養上清液(MSC-CM)を投与した。阻血手術では老化関連βガラクトシダーゼの活性が上昇していたが、MSC-CM投与によって活性が抑制され細胞老化が制御されたことが示された。一方、MSC-CMには阻血すぐの骨細胞の細胞死を減らすことはなかった。それにも関わらず、骨形成の回復が早く、そして手術後6週経過した時点でマイクロCT撮影行うと、MSC-CM投与したマウスの骨は圧潰が防止されていた。
将来的に、骨圧潰予防の新規治療戦略となることに期待
今回の研究成果により、大腿骨頭の阻血性骨壊死である特発性大腿骨頭壊死症に細胞老化が関与していることが示され、さらに阻血性骨壊死の細胞老化を制御することで骨圧潰を防止することが示された。大腿骨頭骨壊死症では骨頭の圧潰が防ぐことが治療目標となるため、同研究のマウスの実験で圧潰が抑えられたことは重要と考えられる。
「将来的には、本研究成果を骨圧潰予防の新たな治療戦略の提供へとつなげ、手術を回避できるようにしていくことが期待される」と、研究グループは述べている。
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