平滑筋肉腫に免疫療法がほとんど効かない原因は?肺転移に着目して研究
九州大学は2月15日、平滑筋肉腫の肺転移では、抗腫瘍効果をもたらす細胞傷害性T細胞の浸潤が著しく減少しており、この免疫逃避には上皮細胞接着因子(EPCAM)が関わっていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院整形外科学教室の金堀将也大学院生(医学系学府博士課程4年)、中島康晴教授、松本嘉寛准教授(現在:福島医科大学教授)、廣瀬毅助教(研究当時)、島田英二郎大学院生(現在:Duke大学へ留学中)、大山竜之介大学院生(医学系学府博士課程3年)、形態機能病理学教室の小田義直教授、川口健悟大学院生(医学系学府博士課程4年)、同大病院整形外科の遠藤誠講師、藤原稔史助教、鍋島央助教らによるもの。研究成果は、「British Journal of Cancer」に掲載されている。
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平滑筋肉腫は四肢や体幹、頭頸部や後腹膜など全身のあらゆる場所に生じ得る悪性軟部腫瘍であり、切除可能であれば手術による外科的切除が有効だ。しかし、切除不能なものに対しては有効な治療方法がない。特に、遠隔転移がある場合は5年生存率が20%を下回り、極めて予後不良となる。そのため、転移性平滑筋肉腫に対する新たな治療方法の開発が望まれている。
近年、悪性腫瘍に対する新たな治療方法として免疫療法が注目されている。免疫チェックポイント阻害薬は、メラノーマ、非小細胞性肺がん、腎細胞がん、頭頸部がんなどの悪性腫瘍に対して有効であり、日常診療で広く使用されるようになった。しかし、悪性軟部腫瘍に対しては効果が限定的であり、特に、平滑筋肉腫にはほとんど効果がないことが臨床試験で示されている。
研究グループは今回、平滑筋肉腫に対して免疫療法の効果がない原因を突き止め、新たな治療標的を探るべく、最も頻度の多い遠隔転移「肺転移」に着目して研究を行った。
肺転移ではCD8+T細胞浸潤が激減、浸潤多いと予後改善
平滑筋肉腫の肺転移では、原発と比べて細胞傷害性T細胞(=CD8+T細胞)の浸潤が著しく減少していることが明らかとなった。CD8+T細胞はがん細胞を攻撃できる、がん免疫において最も重要な免疫細胞だ。平滑筋肉腫においても、CD8+T細胞の浸潤が多いと予後が改善することがわかった。
肺転移ではEPCAM発現上昇により、CD8+T細胞の浸潤が阻害されていた
次に、平滑筋肉腫の肺転移でCD8+T細胞の浸潤が減少する原因を突き止めるために遺伝子発現解析を行った。その結果、肺転移で発現が上昇している分子EPCAMが関わっている可能性が考えられた。これを検証するため、ヒト平滑筋肉腫細胞株のEPCAMを阻害またはノックダウンし、CD8+T細胞の遊走に影響があるかを調べた。その結果、EPCAMを阻害した場合とノックダウンした場合の両方で、CD8+T細胞の遊走が有意に増加した。
以上の結果から、平滑筋肉腫の肺転移では原発と比べてEPCAMの発現が上昇しており、CD8+T細胞の浸潤を阻害していることが明らかとなった。EPCAMを阻害することでCD8+T細胞の浸潤が回復し、抗腫瘍効果を発揮して予後を改善することが期待される。
転移性平滑筋肉腫、EPCAM標的の新規治療方法の開発に期待
今回の成果から、EPCAMを標的とした、転移性平滑筋肉腫に対する新たな治療方法の開発が期待される。EPCAMは多くの悪性腫瘍に発現している、古くからよく知られている分子だが、今回の研究により新たな機能が明らかとなった。今後、他の悪性腫瘍の研究へ応用されることも期待される、と研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース