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原因腎疾患不明の透析患者、1割に遺伝性腎疾患の潜在を発見-東京医歯大ほか

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2024年02月21日 AM09:30

未診断の遺伝性腎疾患、成人慢性腎臓病患者に潜在する例の国内実態は不明

東京医科歯科大学は2月15日、20歳から49歳の間に慢性腎臓病の進行により透析療法や腎移植術を受け、その原因となる腎疾患が明らかでない患者を対象に網羅的遺伝子解析を行い、10%以上の患者に未診断の遺伝性腎疾患が潜在していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の蘇原映誠准教授、森崇寧助教、藤丸拓也非常勤講師、医療法人眞仁会らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International Reports」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

慢性腎臓病は成人の7人に1人を占める新たな国民病と言われている。慢性腎臓病が進行すると透析療法や腎移植などの腎臓の働きを補う腎代替療法が必要となる。日本で透析療法を受けている患者は約35万人で、成人の慢性腎臓病の原因の多くは糖尿病や高血圧などの生活習慣病が多いが、約10%の患者は慢性腎臓病の原因が明らかではない。

近年、成人の慢性腎臓病の患者においても、生まれつきの遺伝子の変異によって起きる遺伝性腎疾患が未診断のまま潜在していることが海外で報告された。しかし、日本において成人の慢性腎臓病患者を対象に網羅的遺伝子解析を実施した報告は今までになく、その実態は明らかにされていなかった。また、原因となる腎疾患が明確でないまま慢性腎臓病が進行して腎代替療法が必要になった成人患者を対象にした網羅的遺伝子解析を実施した報告もなかった。

原因腎疾患不明の患者90人中10人で遺伝性腎疾患を発見、早期治療可能な疾患も

今回の研究は、医療法人眞仁会の4つの外来維持血液透析施設に通院する1,164人の患者のうち、20歳から49歳の間に腎代替療法を開始し、慢性腎臓病の原因となる腎疾患が明らかでない患者90人を対象に、研究グループが開発した298個の遺伝性腎疾患の原因遺伝子の網羅的解析を行った。その結果、10人(11%)に遺伝性腎疾患が遺伝学的に診断された。さらに、これらの患者は透析導入時に正確な臨床診断はされていなかった。今回診断された遺伝性腎疾患の中には、ファブリー病やアルポート症候群など、早期診断および早期治療にて慢性腎臓病の進行を抑えられる疾患も含まれていた。

遺伝子解析が、潜在する遺伝性腎疾患の正確な診断と適切な治療につながると期待

この研究は慢性腎臓病を対象とした網羅的遺伝子解析として、また、原因が不明な慢性腎臓病透析患者の遺伝子解析研究として日本で初めての臨床研究である。結果として、日本における成人慢性腎臓病患者の中に多くの遺伝性腎疾患が診断されないまま潜在していることを明らかにした。小児と異なり、成人期に慢性腎臓病として発見される遺伝性腎疾患は臨床診断が難しいことが示唆されており、これを解決するために網羅的な遺伝性腎疾患の遺伝子解析が有効であることも示した。

今回の研究ではすでに慢性腎臓病が進行した血液透析患者を対象にしており、この遺伝子解析によって腎不全進行を抑制することはできない。しかし、早期治療で慢性腎臓病の進行を抑えられる疾患も含まれていたことを考えると、慢性腎臓病の原疾患が不明な場合、慢性腎臓病が進行する前に、遺伝子解析を行うことで正確な診断と適切な治療ができ、ひいては透析患者の減少につながる可能性を示した。

研究グループは、2014年から1,500家系以上の遺伝性腎疾患の網羅的遺伝子解析を施行した実績があり、そのデータ蓄積により、2023年に日本人特有の慢性腎臓病を対象とした新しい網羅的遺伝子解析システムの特許申請を行った。「この慢性腎臓病の網羅的遺伝子解析システムの実用化により、慢性腎臓病患者に潜在する遺伝性腎疾患の正確な診断と適切な治療につなげることが期待される」と、研究グループは述べている。

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