集計方法変更により、詳細で多様なデータ収集が可能に
岡山大学は2月14日、2022年に警察庁によって実施された自死(自殺)統計の集計方法の変更が、どのように影響を与えたかを評価した結果を発表した。この研究は、同大学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の原田奈穂子教授、学術研究院医歯薬学域(医)の香田将英特任准教授、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の野村周平特任准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載されている。
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世界では年間70万件以上の多くの自死が発生しており、日本もその例外ではない。2022年に警察庁は自死(自殺)データの集計方法を変更した。自死理由に関する既存のカテゴリーが修正され、新しいサブカテゴリー(下位項目)が追加された。既存のカテゴリーでは、「男女問題」というカテゴリーが「交際問題」というカテゴリーに変更された。また、以前は一人につき最大3つまで記載が可能だった警察の調査などによる自死の原因・動機として推定される理由(サブカテゴリー)が、4つまで記載できるようになった。この理由の推定には、家族や重要他者の証言も含まれるようになっている。これらの集計方法の変更により、より詳細で多様なデータが収集されるようになった。自死の理由をより深く理解するための重要な一歩だ。
データの正確さの変化を評価、警察庁データ分析より
研究グループは、警察庁のデータを分析し、データの正確さにどのような変化があったかを評価した。具体的には、分割時系列解析という手法を用いて、2010年1月~2021年までの月ごとのデータから「2022年1月に集計方法が変更しなかった場合」の推定を行い、2022年1月以降どのような変化があったかを調べた。2010年1月~2022年12月までの自死総数のうち、理由がわかっているのは30万2,439人(男性54.7%、女性45.3%)、理由が不明とされたのは7万8,747人(男性60.2%、女性39.8%)だった。
集計方法変更の影響、主要理由全てで確認
データ集計方法の変更後、理由が特定された事例は過去12年間の傾向と比べて839件(95%信頼区間639~1,039件)増えた一方で、理由不明は167人(95%信頼区間-225~-110件)減少したことが明らかになった。この傾向は、7つの主要カテゴリー(家庭問題、健康問題、経済・生活問題、勤務問題、交際問題、学校問題、その他の理由)全てで一貫して認められた。
長期的検証が必要だが、自死理由の解明に期待
自死をより正しく理解し、有効な予防戦略を開発する上で、自死に携わる関係機関、臨床家、研究者、そして全ての人々が、データを正しく理解して使う必要性を認識する必要がある。集計法の変更により、2022年前後の単純な比較ができなくなった一方で、「理由不明」は減少しており、中長期的にみれば、今回の集計方法の変更は、現代の自死の理由について考察する上で役に立ってくるだろうと推察される。今回の研究報告は、集計方法変更後の短期間のデータを用いているため、今後、長期的な検証が必要だ。防ぐことができる死を一つでも減らすために、データを活用して新しいエビデンスをつくり、政策に反映ができるように取り組んでいく、と研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース