KRAS-G12C阻害薬の治療抵抗性、薬に耐性化した時点では複数の原因存在
京都府立医科大学は2月14日、KRAS-G12C遺伝子異常のある肺がん細胞においてKRAS-G12C阻害薬が投与された腫瘍細胞の一部が抵抗して生存する、新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科呼吸器内科学の山田忠明准教授、髙山浩一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Letters」にオンライン掲載されている。
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がんの中で最も頻繁に認められる遺伝子異常のひとつであるKRAS遺伝子異常は、日本における肺がんのうち、15%程度を占める。このKRAS遺伝子異常を持つ肺がん患者のうち、40%程度にはKRAS-G12C遺伝子異常がある。KRAS遺伝子異常は細胞の異常な増殖を引き起こし、がんを発生させる。これまでKRAS遺伝子異常を標的とする有効な治療法はなかったが、近年、KRAS-G12C阻害薬(ソトラシブ)が登場し、日本でも使用できるようになった。しかし、KRAS-G12C阻害薬は約75%の患者において、1年以内に効果が弱まり耐性化する。
これまで、KRAS阻害薬の耐性化に関わる原因を見つけ出し、耐性化を克服しようとするさまざまな研究が行われてきた。しかし、薬に耐性化した時点では、耐性の原因が複数存在するため、耐性化の克服は極めて困難であることがわかっている。
初期治療抵抗性に着目、AXLシグナル活性化の関与が判明
このような現状を打破するため、今回、研究グループは、KRAS阻害薬の治療開始後に生存する細胞の「初期治療抵抗性」を明らかにすることを目的に研究を行った。
KRAS-G12C遺伝子異常肺がん細胞にKRAS-G12C阻害薬を投与したにも関わらず、一部のがん細胞は「初期治療抵抗性」によって生存する。今回の研究では、初期治療抵抗性のメカニズムにAXLシグナルの活性化が関与することを明らかにした。加えて、KRASG12C阻害薬が投与されたがん細胞は、転写因子であるYAPが核内に移行し、AXLシグナルの活性化誘導因子であるGas6の産生を増加させ、AXLシグナルを活性化させることを明らかにした。
AXLタンパク質高発現の場合、初期からのAXL阻害薬併用でがん細胞増殖を強く抑制
KRAS-G12C阻害薬によるKRAS-G12C遺伝子異常肺がんの初期治療抵抗性を克服するため、初期からAXL阻害薬を併用する実験を行ったところ、KRAS-G12C阻害薬単独の治療に比べ、がん細胞の増殖や生存をより強く抑えることがわかった。さらに、KRAS-G12C遺伝子異常肺がん細胞の中でも、AXLタンパク質の発現が高い場合に限り、併用治療による効果を認めることがわかった。また、実験動物モデルを用いた場合も同様に、併用治療はがんの増殖を強く抑制した。さらに、KRAS-G12C遺伝子異常のある肺がん患者の腫瘍組織や臨床データの解析を行い、AXLタンパク質が高発現した患者ではKRAS-G12C阻害薬(ソトラシブ)によるがんの縮小効果が低いことも明らかにした。
以上の研究結果から、AXLタンパク質が高発現したKRAS-G12C遺伝子異常肺がんに初期治療としてKRAS-G12C阻害薬のみを投与すると、初期治療抵抗性により、AXLシグナルが活性化され、治療抵抗性細胞として生存することを明らかにした。また、初期治療抵抗性の対策として、治療初期からKRAS-G12C阻害薬にAXL阻害薬を併用することが有用であることが示された。
AXLタンパク質発現でKRAS-G12C阻害薬効果を判断できる可能性も
今回の研究の成果は、難治性腫瘍の代表である肺がんのうち、KRAS-G12C遺伝子異常のある肺がん患者の中で、AXLタンパク質の発現の強さによってKRAS-G12C阻害薬が効きづらい集団を選別することができる可能性を明らかにした。さらに、AXLタンパク質が高発現したKRAS-G12C遺伝子異常肺がんでは、初期治療からAXL阻害薬とKRAS-G12C阻害薬を併用することで、がんの「初期治療抵抗性」を克服し、再発までの期間を大幅に延長することができる有効な治療法であることを示した。「この治療法が患者の治療へと発展すれば、KRAS-G12C遺伝子異常のある肺がん患者の治療成績を向上させると同時に、肺がんの個別化医療の推進に大きく貢献することが期待できる」と、研究グループは述べている。
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