■啓発資材でリスク周知
厚生労働省は、学校薬剤師・地区薬剤師会を活用したOTC医薬品濫用防止対策事業を開始する。国によるOTC薬濫用防止対策事業は初めてで、近く委託事業者の公募を行う。OTC薬濫用防止に向けた資材を作成し、教育現場では学校薬剤師、地域の薬局では薬剤師に活用してもらい、濫用のリスクを含めた啓発や相談対応に生かす。地区薬剤師会には、薬局や一般消費者への普及啓発に向けた資材のひな形を作成し、セミナー実施など地域の濫用防止対策に役立てる。若年者へのインターネット販売禁止など販売方法の規制強化が検討される中、適正使用の啓発も進める。
今年度補正予算として1600万円を計上した。都道府県では、東京都が来年度から5年間の「東京都薬物乱用対策推進計画」を策定し、小学生などの低年齢層に向けた適正使用・乱用に関する啓発資材を作成するとしている。厚労省事業では、小学校高学年と中学生・高校生の2パターンでOTC薬濫用防止資材を作成する。
現在、大学以外の学校で学校薬剤師の設置が義務付けられており、くすり教育が実施されているが、現場で活用されている啓発資材は麻薬や危険ドラッグなどの禁止薬物に関する記載が主体で、OTC薬の濫用リスクにあまり触れられていない。近く委託事業者を公募し、新たな資材の作成に取りかかる。
作成した啓発資材は、学校薬剤師がリスク啓発や相談対応を行う際に役立てる。薬・健康相談などで地域住民との接点が増えている薬局向けには、薬剤師や登録販売者が医薬品販売時、またはリスク啓発や相談対応時にどのように対応すべきかを示したマニュアル資材も作成する方針だ。
さらに、地区薬を活用した薬局・一般消費者向けの普及啓発を促進するため、地域で一般消費者への説明時に活用できる資材のひな形も作成する。同事業ではリスク啓発を目的としたウェブセミナーを開催し、各地区薬が今後セミナーを行う際の参考にしてもらう。
青少年によるOTC薬の濫用は社会問題化している。国立精神・神経医療研究センターの調査によると、2014年の改正薬事法施行後、精神科で治療を受けた10代患者で市販薬を「主たる薬物」とする患者の割合が14年に0%、16年に25%、18年に41%、20年に56%と急増している。
厚労省検討会は、濫用の恐れのあるかぜ薬や咳止め薬などについて、20歳未満に販売する場合は小容量1個のみとし、対面かオンラインの販売方法に限るとの方向性を示した。来年度からスタートする厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で具体的な法改正の議論に入る見通しだ。
一方で、濫用防止には販売規制だけではなく、広く国民に向けた適正使用の啓発や注意喚起など総合的な対策が必要となる。地区薬が中心となって適正使用の啓発を行う地域もあるが、地域によって温度差が生じているのが現状である。
薬局で販売されているOTC薬が原因となって濫用が起こっており、薬剤師や登録販売者には当事者の意識が必要になる。厚労省は「OTC薬を適正に販売していただくと共に、資材を活用して教育現場での啓発や地域住民に対するリスク啓発・相談対応に役立ててほしい」と協力を求めている。