寛解期でも脳萎縮や高次脳機能障害が進行し得るNMO、免疫病態は未解明
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は2月14日、視神経脊髄炎(NMO)の重症度や脳萎縮との関連を示すB細胞の特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター神経研究所免疫研究部の天野永一朗研究員、佐藤和貴郎室長、神経研究所の山村隆特任部長、NCNP病院脳神経内科、同放射線診療部、東京医科歯科大学脳神経内科らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neurology: Neuroimmunology and Neuroinflammation」にオンライン掲載されている。
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NMOは、免疫系が自身の身体を攻撃する自己免疫疾患の一つで、抗アクアポリン4抗体(抗AQP4抗体)と呼ばれる自己抗体の産生や抗体産生細胞であるB細胞の異常を特徴とする疾患である。NMOでは、視神経に伴う急激な視力の低下、脊髄炎による麻痺や感覚障害が出現するが、これらの急激な症状の悪化が何度も「再発」し、神経障害の蓄積によって病状が進行するという特徴がある。研究グループは、再発時に抗AQP4抗体を産生するB細胞の一種、プラズマブラストが増加することを先行研究で明らかにし、プラズマブラストが抗AQP4抗体を作るときにはIL-6が重要であること、IL-6を阻害することで再発を予防できることを示した。
一方で、再発と再発の間の時期を「寛解期」と呼ぶが、寛解期の免疫病態は不明な点が多いのが現状である。従来、NMOの寛解期には病態・神経障害の悪化はないと考えられてきたが、寛解期でも脳萎縮や高次脳機能障害が進行し得ることが近年の研究でわかってきた。これらの知見は、NMOの寛解期に慢性炎症が持続している可能性や、脳萎縮が進行する症例に何らかの免疫学的特徴が存在する可能性を示唆しているが、そのメカニズムは十分に明らかになっていなかった。
寛解期のNMO患者、血液中のCD11chighB細胞が増加
NCNP病院に通院中の、寛解期の抗AQP4抗体陽性NMO患者45人と、健常者30人の全血から末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、フローサイトメトリーで解析を行った。さらに、比較対象として28人の寛解期の再発寛解型多発性硬化症(RRMS)患者と、ステロイドを内服中の15人のRRMS患者の解析を行った。また、血液検体の採取から1年以内に脳MRIを撮像している患者26人を対象に、解析ソフト(FreeSurfer 6.0, LST toolbox version 3.0.0)を用いて全脳、白質、灰白質の体積とT2/FLAIR高信号病変の体積を算出した。これらの体積は、頭蓋骨の大きさの個人差を考慮し、頭蓋内用量(estimated total intracranial volume:eTIV)で補正を行った。
血液中のB細胞はCD11cの発現の量に応じて、CD11chigh、CD11cmid、CD11c-の3分画に分かれる。NMO患者では、B細胞中のCD11chighB細胞の頻度が健常者や類縁疾患であるRRMS患者と比較して増加していることがわかった。多くの患者がステロイドや免疫抑制剤による治療を受けていたが、治療薬の量や種類による違いは見られなかった。
CD11chighB細胞、重症度/過去の再発数/罹病期間と関連し過去1年の再発とは関連なし
次に、CD11chighB細胞の病態への寄与を解明するために、NMO患者の過去の臨床情報とMRI検査による脳画像との関連について調べた。
まず臨床像との関連を評価したところ、B細胞の中でCD11chighB細胞の占める割合は、重症度指標(Expanded Disability Status Scale:EDSS)が高い症例、過去の再発回数が多い症例、罹病期間が長い症例でより増えていることがわかった。しかし疾患活動性の指標の一つである過去1年間の再発率(ARR)や年齢との関連は認められなかった。
CD11chighB細胞増加症例では脳萎縮が進行
次に脳MRI画像との関連を調べると、B細胞の中でCD11chighB細胞がより増えている症例では全脳、白質および灰白質体積が小さい、つまり脳萎縮が進んでおり、病変の体積も大きいことがわかった。
IFNγを産生するTph-1細胞、患者のCD11chighB細胞増加に関与する可能性
次に、NMO患者のB細胞の中でCD11chighB細胞が増加している理由を探るために、B細胞が成熟する環境を整えて抗体産生細胞に分化するのを助けるTfh(T-follicular helper)細胞とTph(T-peripheral helper)細胞に着目した。Tfhはリンパ濾胞内でB細胞の分化に関わるが、Tphは炎症部位に遊走してリンパ濾胞外でB細胞の分化を促す。CD11chighB細胞が出現するメカニズムに関して、過去の研究報告では、Tph細胞からインターフェロンγが作られ、B細胞と相互作用することが重要であることが示されている。
そこで、NMO患者のメモリーTh細胞(=成熟したTh細胞)中のTph細胞の割合を調べたところ、健常者よりもNMOで増加していることがわかった。一方で、Tfh細胞は増加していなかった。Tph細胞の中でも、インターフェロンγを産生するTph細胞は「Tph-1細胞」と呼ばれるが、NMO患者のCD11chighB細胞はTph-1細胞の割合と相関していることがわかった。以上から、NMOの病態において、CD11chighB細胞の増加にTph細胞、その中でもTph-1細胞が関わっている可能性が推察された。
以上の結果をまとめると、NMOにおける末梢血のCD11chighB細胞の割合は、再発の頻度よりも、罹病期間や過去の総再発回数といった長期間の炎症の蓄積を反映していると考えられた。さらに、脳萎縮との関連が強いことが明らかとなり、NMOの脳内の慢性炎症にCD11chighB細胞が関与している可能性が示唆された。また、CD11chighB細胞が増える機序として、Tph-1細胞が関与している可能性が考えられた。
CD11chighB細胞を標的とした治療介入につながる可能性
CD11chighB細胞は、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群、関節リウマチといった自己免疫疾患において増加していることが近年注目されてきたが、NMOにおける意義は今まで不明だった。また、NMOの寛解期における免疫学的特徴が、どのような臨床的特徴を反映しているのか、十分にわかっていなかった。今回の研究は、NMOのB細胞の特徴としてCD11chighB細胞が増えているということ、そしてB細胞の中でCD11chighB細胞が占める割合がNMOの慢性病態や脳萎縮を特徴づけることを初めて明らかにした。NMOにおける脳萎縮の進行を予防するために、CD11chighB細胞の介在する慢性炎症を制御することが重要である可能性を示唆する。
「今後は、長期間の前向き研究でNMOの臨床像の経時的変化とCD11chighB細胞が増加するタイミングの関係を明らかにすることで、CD11chighB細胞を標的とした治療介入の有効性を検討することができるようになると考えられる」と、研究グループは述べている。