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加齢と自己免疫疾患で増加する「ThA細胞」を発見、世界初-東大病院ほか

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2024年02月16日 AM10:06

自己免疫疾患の発症には、遺伝・環境要因以外に「」が関係すると考えられていた

東京大学医学部附属病院は2月9日、自己免疫疾患の病態制御に関わる新たな加齢関連T細胞として「ThA細胞」を発見したと発表した。この研究は、同病院アレルギー・リウマチ内科の後藤愛佳病院診療医、高橋秀侑助教、吉田良知特任臨床医(研究当時)、同大大学院医学系研究科 免疫疾患機能ゲノム学講座の太田峰人特任助教(研究当時)、岡村僚久特任准教授、同大学院生体防御腫瘍内科学講座 アレルギー・リウマチ学の藤尾圭志教授らの研究グループと、 生命医科学研究センターの中野正博学振特別研究員、石垣和慶チームリーダー、山本一彦チームリーダーらとの共同研究によるもの。研究成果は、「Science Immunology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

自己免疫疾患の発症には遺伝的および環境的な要因が関与するが、自己免疫疾患の多くが中年以降に発症のピークを迎えることから、「加齢」も重要な要因として知られている。また、免疫学的な細胞レベルでの老化が、自己免疫疾患の発症に関わっているとも考えられている。研究グループは過去に、代表的な10の自己免疫疾患の症例および健常人、計416例の末梢血から28種類の免疫担当細胞を回収し、過去最大規模の機能ゲノムデータベース「ImmuNexUT(Immune cell gene expression atlas from the University of Tokyo)」を構築し、報告している。

今回は、同データベース構築時のフローサイトメトリーの詳細な観察から、若年健常人では少なく自己免疫疾患や高齢者で増加を認め、過去には報告のないT細胞として「ThA(Age-associated helper T/加齢関連ヘルパーT)細胞」を発見し、7年間研究した成果をまとめて発表した。

ThA細胞、独自の遺伝子発現の特徴を有し細胞傷害性の強い分子を高発現

ThA細胞は、既知のヘルパーCD4陽性T細胞とは重複のないエフェクターメモリーT細胞のうち、細胞表面のCXCR3という分子が中程度に発現する細胞として同定され、加齢によりこの割合が増加することが判明した。また、ThA細胞の網羅的な遺伝子発現解析を行った結果、ThA細胞が、既知の8種のCD4陽性T細胞とは異なる独自の遺伝子発現の特徴を有すること、さらに細胞傷害性の強い分子を高発現していることが明らかになった。

「SLE」でThA細胞が増加

また、ThA細胞は多彩な自己抗体産生を特徴とする自己免疫疾患・(SLE)で増加を認めた。RNAシークエンスのデータを用いて健常人と遺伝子発現の違いを確認したところ、健常人よりも、B細胞の抗体産生誘導に関わるIL-21とCXCL13の発現が著しく高いことがわかった。実際に、試験管内の実験においてもThA細胞は強い抗体産生誘導能が認められた。

B細胞の抗体産生を強く誘導することも判明

ThA細胞によるB細胞の抗体産生を誘導する作用は、これまで、最も強い抗体産生を導くことが知られている濾胞性CD4陽性T(Tfh)細胞と同程度だったという。Tfh細胞は細胞表面にCXCR5というタンパク質を発現しているが、ThA細胞はこれを発現せず、異なる細胞となる。Tfh細胞はリンパ濾胞においてB細胞の抗体を産生することが知られているが、近年、リンパ濾胞外においてB細胞の抗体産生を導くCD4陽性T細胞が自己免疫疾患において病態を制御することが注目されている。このようなT細胞として、細胞表面にPD-1という分子を発現するTph(PD-1陽性CXCR5陰性CD4陽性 末梢ヘルパーT)細胞が最も良く知られており、世界中で盛んに研究が行われている。Tfh細胞はCXCR5という分子を発現し、リンパ濾胞内に遊走するが、Tph細胞はCXCR5を発現しないため、リンパ濾胞内に積極的に入り込むことができない。一方で、Tph細胞はCXCL13というタンパク質を発現することで、B細胞を引き寄せ、リンパ濾胞外でもB細胞の抗体産生を誘導できると考えられている。

ThA細胞が独立した細胞サブセットである可能性

しかし、Tph細胞のマーカーであるPD-1はT細胞が活性化しただけでも発現してしまうことから、CXCR5を発現しないB細胞抗体産生誘導能を持つCD4陽性T細胞の特異的細胞表面マーカーの同定が強く望まれてきた。CD4陽性T細胞は、特異的なマーカーとなる細胞表面タンパク質と、その細胞の機能を制御する転写因子(マスター制御遺伝子)の2つが揃うことで、独立したサブセットと認められる。これまで、Th1、Th2、Th17、制御性T細胞などが、このような方法で定義され、多くの疾患の病態解明に寄与してきた。一方で、Tph細胞は、PD-1が唯一のマーカーであるものの、上述のようにTph細胞だけに発現するものではなく、マスター制御遺伝子も同定されていないことが課題となっている。

今回の研究で同定したThA細胞は、CXCR3が中程度の発現という他のCD4陽性T細胞サブセットと重複しない特異的なマーカーを有している。そこで、ThA細胞とTph細胞について、他のCD4陽性T細胞サブセットとの重複につき確認をしたところ、ThA細胞はTph細胞を除く他のCD4陽性サブセットとの重複はない一方で、Tph細胞は多くの既知のCD4陽性T細胞サブセットと重複を認めた。また、Tph細胞は加齢により増加することはなく、ThA細胞におけるTph細胞との重複率は約10%のみであることから、ThAは独立した細胞サブセットと考えられた。

ThA細胞における発現変動遺伝子のほとんどが、SLE疾患活動性に関与

さらに同研究では、ThA細胞がZEB2およびTBX21という2つの転写因子を強く発現していることを同定し、ThAの機能発現においては特にZEB2遺伝子がマスター制御遺伝子として機能することまで同定した。また、ThA細胞はT細胞受容体の多様性が、他のT細胞と比べ著しく低いことから、ThA細胞が生体内の抗原特異的に増殖していることが示唆された。

最後に、SLE症例の臨床情報と、ThA細胞を含む9つのT細胞サブセットのRNAシークエンスデータとの統合解析を行った。その結果、他のT細胞の遺伝子変動と比べて、SLEの疾患活動性の影響を最も強く受けるのはThA細胞であることが判明した。また、ThA細胞における発現変動遺伝子のほとんどが、疾患活動性に関わるという知見を得たという。この傾向は、他の細胞サブセットと比較しても顕著なものだったとしている。

自己免疫疾患制御、健康長寿社会の実現に期待

今回の研究により、抗体産生促進能と細胞傷害活性を併せ持ち、加齢と自己免疫疾患で増加する新しいThA細胞が同定された。ThA細胞の遺伝子変動はSLEの疾患活動性を非常に強く反映しており、ThA細胞が自己免疫疾患の新たな治療ターゲットになる可能性が示唆された。

細胞を傷害するT細胞については、さまざまな自己免疫疾患で増加することが知られている一方、110歳を超える超高齢者においても著しく増加していることが報告されている。つまり、自己免疫疾患発症と高齢者における免疫機能維持の両方に、細胞傷害性T細胞が関係していると考えられる。ThA細胞の細胞を傷害する機能が、どのように関わっているかの解明は今後の課題だ。

「加齢で増加するThA細胞が自己免疫疾患において中心的役割を果たしていることから、ThA細胞のさらなる研究は、自己免疫応答と健康長寿の違いを知ることができる可能性を内包しており、今後の治療応用への展開が期待される」と、研究グループは述べている。

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