直前に得た情報が後の判断に影響を与える「系列依存性」
大阪公立大学は2月13日、系列依存性に関わる心理実験を行い、数を推測するとき、直前の回答の影響を受けることを実証したと発表した。この研究は、同大大学院現代システム科学研究科の牧岡省吾教授と森本優洸聖大学院生(博士後期課程3年)の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
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ヒトが見たり聞いたりすることは、その前に見たり聞いたりしたことの影響を受け、その受け方は刺激や時間間隔によって異なる。反対方向の影響を「順応(例:右向きの動きを見た後に左向きの動きに敏感になる)」、同じ方向の影響を「系列依存性(例:たくさんの点を見た後、次に表示された点の数が多く見える)」と呼ぶ。順応は環境の変化を敏感に捉えるための働き、系列依存性は環境やヒトの内部で生じるランダムなノイズの影響を防ぐ働きを持つと考えられている。
男女62人対象、数の推測で系列依存性が起こる状況を実験調査
研究グループは先行研究により、硬貨の総金額を推測する場合でも系列依存性が生じること、また、前の刺激に対する回答が、前の刺激そのものより強く系列依存性を引き起こすことを見出した。しかし、この実験では回答を行う場合と行わない場合を比較しなかったため、回答の影響を十分に検証したとは言えない。そこで今回の研究では、回答の影響を直接検証する実験を行うと同時に、系列依存性によって数の推測がより正確になったかどうかも調べた。
今回の実験では、8~32個の点を画面上に提示し、参加者は点の数を推測して回答した。また、回答せずに刺激を見るだけの試行も設けた。刺激は白と黒の点で、試行ごとにランダムに数が変化する。刺激の提示時間は0.25秒のため、点を1個1個数えることはできない。回答する試行では、点の数を推測してキーボードで入力し、見るだけの試行では何もせずに次の試行に移る。
実験1では、1:すべての試行で点の数を回答する条件、2:刺激を見るだけの試行と点の数を回答する試行を交互に行う条件、3:刺激を見るだけの試行と点の数を回答する試行をランダムに行う条件を各702試行行い、参加者の回答と実際に画面に提示された点の数を比較し、誤差を求めた。実験の参加者は男女計62人(1、2の条件:35人・平均年齢19.19歳、3の条件:23人・平均年齢18.65歳)。また、誤差の値が前の試行で提示された点の数によってどのように変動するのかを、回帰分析を用いて分析した。前の試行の点の数が多いほど誤差が正の方向に大きくなるとき、系列依存性が生じたと言える。
系列依存性、直前の回答影響を受けることを実証
分析の結果、1の条件では前の刺激に応じて系列依存性の値が大きく上昇したが、2の条件では系列依存性は見られなかった。しかし、2の条件では刺激を見るだけの施行と点の数の回答を交互に行ったため、見るだけの試行で刺激に注意を向けなくなっている可能性がある。そこで、実験2では3の条件のもと実験を行い、前の刺激に反応したときに系列依存性が有意に大きくなることがわかった。このことから、前の試行で数を回答することが系列依存性の強さを大きくすることが立証された。
系列依存性で数の推測が正確になることは確認されず
一方、先行研究により点の個数を比較する課題では、刺激を見るだけでも系列依存性が生じることがわかっている。同実験によって、「個数を比較すること」と「個数を推測して数字として答えること」のメカニズムに違いがあることが判明したため、数字として答える場合には、反応を生成する部分に近い、より高次なメカニズムが働くと考えられる。また、同実験では系列依存性が生じたときに、点の個数の推測が正確になるという証拠は得られなかった。これは、実験では点の個数がランダムに変化したためだと考えられる。
ヒューマンエラーを防ぐ情報提示デザインを考える上で、重要な知見
今回の実験結果は、ヒトが数を推測するときに直前の回答の影響を受けることを意味し、ヒューマンエラーを防ぐ情報提示のデザインを考える上で重要な知見だという。同研究室では、数に関する系列依存性が子どもでも生じるかどうか、数の刺激を音で提示した場合にも生じるかどうかなどの検討を進めている。これらの研究を通して、系列依存性が生じるメカニズム、数に関する処理のメカニズムなどを詳細に解明することで、ヒューマンエラーを防ぐためのより明確な指針の提供を目指す、と研究グループは述べている。
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・大阪公立大学 プレスリリース