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神経皮膚黒色症、多領域ゲノム解析で腫瘍形成/悪性化に関わる変異同定-新潟大

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2024年02月15日 AM09:00

母斑は良性で脳病変だけが腫瘍化する神経皮膚黒色症、その機序は未解明

新潟大学は2月9日、まれな難病である神経皮膚黒色症の腫瘍形成と悪性化に関連する責任遺伝子()を同定することに成功したと発表した。この研究は、同大脳研究所脳神経外科分野の高橋陽彦非常勤講師、大石誠教授、脳神経疾患先端治療研究部門の棗田学特任准教授、病理学分野の柿田明美教授、遺伝子機能解析学分野の池内健教授、同大大学院医歯学総合研究科法医学分野の小山哲秀助教、皮膚科学分野の結城明彦助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Acta Neuropathologica Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

神経皮膚黒色症は皮膚色素性母斑と脳の髄膜色素細胞の異常増殖を特徴とする先天性神経皮膚症候群である。母斑は組織学的に良性だが、脳病変は小児期もしくは20~30歳代で高率に腫瘍化し、その後は急速に進行する極めて予後不良な疾患である。皮膚組織と脳組織の発生起源は同じ外胚葉に由来する。胎児期に遺伝子変異を生じた色素細胞前駆細胞が皮膚や脳脊髄周囲の髄膜へ分布することが原因として推測されている。母斑と腫瘍で共通の遺伝子変異を有することが報告されているが、脳病変のみが腫瘍化に至る機序は解明されておらず有効な治療法は皆無である。

研究グループは、同大で経験した神経皮膚黒色症剖検例に対して、腫瘍、母斑、その他の正常部位を含めて多領域ゲノム解析を行い、腫瘍形成と悪性化に関連したドライバー変異を同定した。

剖検例に対し、腫瘍・母斑・非腫瘍部位の体細胞変異とコピー数解析を実施

水頭症で発症し、脳室-腹腔シャントを介した広範な腹腔内播種が原因となり腫瘍死した神経皮膚黒色症剖検例に対して、腫瘍、母斑、非腫瘍部位を含めた多領域ゲノム解析を行った。その結果、剖検時腹腔内臓器の表面に多量の腫瘍細胞を認めた。臨床経過および剖検所見から、腹腔へ播種した少量の腫瘍細胞が腹腔内で急速に増殖したことが、発症から6か月後に腫瘍死した原因と考えられる。

手術および剖検時に採取した脳腫瘍、腹部腫瘍、母斑、大脳皮質、大脳白質、正常皮膚、腎臓髄質からDNAを抽出し、全エキソームシーケンス解析(WES)による網羅的遺伝子解析を行った。腹腔内臓器の表面に多量の腫瘍細胞を認めたが、腎臓髄質には腫瘍細胞の浸潤を認めず、腎臓を正常コントロールとして体細胞変異を解析した。WES結果をドロップレットデジタル PCR(ddPCR)解析で検証し、WESで得られたデータに対して対立遺伝子特異的コピー数解析を行った。WES同様、腎臓を正常コントロールとしてエクソン領域のコピー数を解析した。

71遺伝子に体細胞変異、腫瘍化関連では3つの変異を検出

WESでは6領域で合計71遺伝子、87個の体細胞変異が検出され、とくに腫瘍部で多数検出された。母斑で検出された遺伝子変異はわずかであり、他の部位と共通する遺伝子変異は認めなかった。腫瘍化に関連する遺伝子変異としてGNAQ R183Q、 G89S、 G12Vの3つが検出された。GNAQ変異は眼ブドウ膜悪性黒色腫、NRAS変異は小児神経皮膚黒色症と関連した髄膜黒色腫症のドライバー変異として報告されている。S1PR3変異は肺がんや腎臓がんとの関連が報告されているが、悪性黒色腫では報告されていない。 R183Q、S1PR3 G89Sは腹部腫瘍、脳腫瘍、大脳皮質、正常皮膚の4部位で検出され、変異アレル頻度(MAF)は腫瘍部位で高値だった。一方、 G12Vは腹部腫瘍でのみ検出され、この症例の悪性化に関連するドライバー変異と考えられた。

GNAQ・S1PR3は脳腫瘍/腹部腫瘍でMAF高値、NRAS変異は腹部腫瘍でのみ検出

ddPCRではGNAQ R183Q、S1PR3 G89S変異は、脳腫瘍、腹部腫瘍でMAFが高値だった。大脳皮質、大脳白質、正常皮膚からも低頻度で遺伝子変異が検出されたが、母斑、腎臓からは検出されなかった。NRAS G12V変異は腹部腫瘍でのみ検出され、これらの結果はWESの結果と一致していた。

対立遺伝子特異的コピー数解析では腹部腫瘍、脳腫瘍で1番染色体(NRAS)、9番染色体(GNAQ・S1PR3)にコピー中立的なヘテロ接合喪失(Copy-neutral loss of heterozygosity:CN-LOH)が検出された。

多領域ゲノム解析、神経皮膚黒色症の病態解明と治療法開発につながる方法として期待

この研究では神経皮膚黒色症剖検例に対する多領域ゲノム解析を行い、本症例における腫瘍形成と悪性化に関連するドライバー変異およびコピー数異常を明らかにした。母斑からはドライバー変異が検出されなかったが、検体採取のタイミング(母斑のみ手術、他は剖検時に採取)、母斑部の細胞密度が低かったことなどが影響したと考えられる。腫瘍、母斑、非腫瘍部位を含めた多領域ゲノム解析は、神経皮膚黒色症の病態解明と新規治療法の開発につながる解析方法であり、希少難病克服に向けた重要な第一歩として期待される。

「今回の研究は1例に対する症例報告だが、神経皮膚黒色症は10~20万人に1人と極めて希少な疾患で、病態解明に向けた解析アプローチを示したことは大きな前進であり、今後も同様の解析を行っていく必要がある。さらに治療ターゲットとして選択可能な遺伝子変異であるかどうか検証していく必要がある」と、研究グループは述べている。

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