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女性の冷え症と関連する遺伝要因をGWASにより同定-慶大ほか

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2024年02月14日 AM09:20

遺伝的背景に起因と示唆されていたが遺伝子解析の報告なし

慶應義塾大学は2月7日、日本の成人女性1,111人を対象に、冷えの自覚症状に関する初の網羅的なゲノム解析を実施し、冷え症と関連するゲノム領域を発見したことを発表した。この研究は、同大医学部漢方医学センターの呉雪峰研究員(研究当時:慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程)、吉野鉄大特任講師、三村將名誉教授、株式会社ツムラの西明紀氏、株式会社DeNAライフサイエンスの石田幸子氏らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

冷えは器質的な異常がないにもかかわらず、全身または身体の一部に寒冷感を自覚する症状で、冷えにより日常生活に苦痛を感じ、支障をきたす場合には冷え症とされ、漢方外来を受診する患者の中でも最も多い症状である。冷え症を有する患者は苦痛を伴う寒冷感を自覚するのみならず、不眠や疲労感、浮腫、痛みなどの随伴症状をともない、患者の生活の質を低下させるとともに他疾患発症の引き金になるとすら考えられ、冷えおよび冷え症の実態把握と治療法の確立は重要な課題となっている。

これまでに冷えおよび冷え症が発症する生理学的メカニズムとして、自律神経機能失調による血管運動神経障害、エストロゲン低下による女性ホルモンのバランス異常、筋肉量の減少による体温調節機能の低下などが示唆されてきた。その一方、冷えを有する女性の母親はその60%以上が冷えを有することが報告されており、また思春期以降の外来患者における冷えおよび冷え症の頻度が年齢によって大きな変動を認めないことから、冷えおよび冷え症が遺伝的背景に起因することが示唆されていた。しかしながら、冷えに関連する網羅的な遺伝子解析研究報告はなく、冷えに対する遺伝的要因の影響に関しては定かではなかった。

1,111人中約半数が冷え自覚、「運動習慣がない」「漢方薬使用」などの割合高く

研究は、株式会社DeNAライフサイエンスの「MYCODE Research」(一般向け遺伝子検査サービス)のもと、参加に同意した成人女性(20歳以上60歳未満)を対象に、アンケートにより冷えの自覚部位および負担感を調査し、ゲノム上にある500万箇所以上の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNPs)との関連を、統計的に検討した。

解析対象となった1,111人のうち、512人は冷えを自覚しておらず、599人が冷えを自覚していた。冷えを自覚している群は体重が低く、運動習慣がない・閉経前・のぼせを自覚している・漢方薬を使用している人の割合が高いことがわかった。身体症状による負担感を評価する自記式質問票の身体症状スケール(SSS-8スコア)は、冷えを有する群が冷えを有さない群よりも有意に高く、冷えの程度が重度になるとスコアも高くなることがわかった。また、冷えの部位によらず、冷えのない群よりもスコアが高いこともわかった。したがって、冷えを有する人は痛みをはじめとするさまざまな身体症状による負担感を自覚していることがわかった。

温度感受性チャンネルのKCNK2やTRPM2が冷えのリスクと関連

ゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study:GWAS)で、P<0.00001を示唆的有意水準としたところ、11のゲノム領域を同定した。これらの領域のSNPsは全てアミノ酸置換を伴わない変異であったため、これらを発現量的形質遺伝子座(Expression-Quantitative Trait Locus:eQTL)のデータベースであるThe Genotype-Tissue Expression(GTEx)で検索し、周辺の遺伝子の発現量への影響を確認したところ、温度感受性チャンネルであるKCNK2やTRPM2の発現量に影響があることが確認できた。具体的にはKCNK2遺伝子近傍のrs1869201一塩基多型と、TRPM2遺伝子上のrs4818919遺伝子多型などである。

KCNK2とTRPM2は生薬により活性化される

KCNK2とTRPM2はいずれも陽イオンチャネルで、チャネルの活性が温度によって変化することが示されている。KCNK2の活性はヒトの体温では細胞膜電位を低下させる、つまり神経活動を阻害するように働いている。そのため今回同定したSNPがある場合にKCNK2が減少すると、神経の低温に対する感度が高まることが予想される。KCNK2はショウガの成分などにより活性が高まることも報告されている。TRPM2は深部体温の維持に関与していると報告されており、今回同定したSNPがある場合に脳内の組織で発現が低下すると、深部体温を維持しようとする働きが強まり熱の放散を防ぐために手足の血管が収縮し冷えが発生することが予想される。TRPM2もさまざまな生薬により活性化されることが報告されている。

大規模な検証により冷え症の遺伝的基盤の解明へ

今回、冷えおよび冷え症が一様な疾患・状態ではないことが示唆され、原因となる可能性のある遺伝子が発見された。今後、研究成果をさらに大規模に検証することで、冷えおよび冷え症の遺伝的基盤の解明につながると考えられる。「生薬により活性化されるイオンチャネルが今回の研究で発見した冷え症の関連遺伝子として挙げられることから、研究成果は漢方薬が冷え症に有効であるメカニズムの解明にも重要な意義をもっていると考えられる」と、研究グループは述べている。

なお、同大とツムラは、研究成果をもとに冷え性判定方法、および冷え症タイプ判定方法についての特許出願も行っている。

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