温泉入浴が健康な成人の「腸内細菌叢」に与える影響は?
九州大学は2月7日、温泉入浴が腸内細菌叢に与える影響を実証したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究院都市システム学講座の馬奈木俊介主幹教授(兼:九州大学都市研究センター長)と武田美都里特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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別府温泉地は、2,000以上の温泉源を有し、日本で最も多様な温泉を提供している。日本では、含まれる化学物質の種類と濃度により、10種類の療養泉に分類されている。しかし、これらの温泉が具体的にどのような健康効果をもたらすか、また、泉質による効能の差に関する研究は十分に行われていなかった。
温泉は、地域開発や温泉療法において重要な役割を果たしてきた。鉱泉や温泉水の入浴や飲用は、治療の補助や疼痛緩和のために世界中で用いられてきた。研究として、筋骨格系や皮膚疾患の患者の睡眠の質や生活の質の改善に加え、心血管疾患や高血圧の緩和に効果があることも報告されている。さらに、最近の研究では、温泉入浴と疾病患者における腸内細菌との相互作用についても研究が進められている。
腸内細菌はさまざまな病気や健康に深く関わっている。また、温泉入浴も疾病患者のみでなく健康な人にも広く親しまれており、健康な人での効果を検討することで公衆衛生の向上や、温泉の新しい価値を創出することができると考えた。
そこで研究グループは今回、健康な成人が異なる泉質の温泉に入浴した際の、腸内細菌叢に与える影響を検討した。
炭酸水素塩泉でビフィズス菌「B. bifidum」が、単純泉と硫黄泉では複数の菌が有意に増加
この研究は、2021年6月~2022年7月にかけて、九州在住の18歳以上65歳以下の慢性病を有しない健康成人136人(男性80人、女性56人)を対象に実施した。参加者には別府温泉の5つの異なる泉質(単純泉・塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫黄泉)に7日間連続で毎日20分以上入浴してもらった。さらに、通常通りの食生活を維持するよう依頼した。
7日間の入浴前後の便検体を収集し、腸内細菌叢の変化を16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングで測定し、解析を行った。その結果、泉質によって腸内細菌の占有率に有意な変化が見られた。一番変化率が大きかった菌として、炭酸水素塩泉におけるビフィズス菌の一種(Bifidobacterium bifidum)の有意な増加が見られた。また、単純泉と硫黄泉でも複数の菌が有意に増加した。
温泉療法や健康促進プログラムで、より個別化されたアプローチが可能に
今回の研究成果により、温泉浴が健康にどのように寄与するかの理解が深まり、温泉の医療的利用の新たな方向性が示唆された。特に、炭酸水素塩泉・単純泉・硫黄泉など、異なる泉質が腸内細菌叢に与える影響の分析により、温泉の種類による健康への具体的な効果が明らかになった。これにより、温泉療法や健康促進プログラムを開発する上で、より個別化されたアプローチが可能となり、温泉療法の理論的根拠が見出されたと言える。
「温泉による腸内細菌叢や健康への影響についてはまだ十分に解明されていないため、今後のさらなる研究が必要だ。温泉入浴効果がどの程度持続するのか、また、他の身体的効果についても研究していくことで、さらなる温泉研究の発展が期待できる。現在、再現性の確認や対照群を用いた研究により、詳細な研究を進めている」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース