将来的に、気候変動に伴う死亡率の季節性は変化するのか?
長崎大学は2月7日、将来的に気候変動に伴う死亡率の季節性が変化する可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 マダニヤズ・リナ准教授、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 橋爪真弘教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Planetary Health」に掲載されている。なお、同研究は、英国ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院、米国ハーバード大学等を含む、世界43か国・地域の研究者が参加する「MCC 共同研究ネットワーク」を活用して行われた。
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死亡者数の季節性についてはよく知られているが、通常、寒冷な季節の方が温暖な季節よりも死亡率が高い傾向にある。温暖化が進む中、気温の上昇により寒冷な季節の死亡率が低下する一方、温暖な季節では増加し、結果として死亡率の季節性が変わる可能性があると言われている。そこで研究グループは今回、多様な気候帯における死亡率の季節性が将来変化するのかについて、体系的かつ包括的な評価を行った。
研究では、平均気温と死亡者数(全ての原因または非外因死に限定)の日別時系列データを、Multi-Country Multi-City Collaborative(MCC)共同研究ネットワークを通じて収集。温室効果ガス排出量の増加に沿った4つの気候変動シナリオ(共通社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways:SSP)シナリオSSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、およびSSP5-8.5)を用いて、2000~2099年までの日別死亡者数を予測。予測された死亡率の季節性を、その形状(最小(谷底)と最大(ピーク)死亡のタイミング(年の日))および大きさ(ピークと谷底の比(振幅)と寄与割合)によって、10年ごとに推定した。
2000~2090年代、温暖な季節の死亡率「増」、寒冷な季節の死亡率「減」の可能性
その結果、2000~2099年までの期間において、これらの707都市における年間平均気温が、それぞれSSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP3-7.0、およびSSP5-8.5のシナリオに基づいて、1.35℃、2.73℃、4.26℃、および5.55℃上昇する見込みであることがわかった。
また、全てのSSPシナリオにおいて、温帯地域、大陸性気候帯、乾燥気候帯において、2000~2090年代にかけて、温暖な季節における死亡率は増加し、寒冷な季節における死亡率は減少すると予測された。ただし、寒冷な季節における死亡率は依然として高い水準を維持すると予測されたという。これらの傾向は、温室効果ガスの低い排出シナリオから高い排出シナリオに移るにつれて強まり、最高の排出シナリオ(SSP5-8.5)のもとで季節性を大きく変える可能性がある。
これは死亡のピークが寒冷な季節から温暖な季節に変わり、季節性の影響(寄与割合)が増大するためだという。この影響は特に今世紀後半に顕著であり、気候帯によって異なる影響がもたらされる可能性があるとした。2090年代と2000年代を比較した結果では、SSP5-8.5シナリオにおいて振幅は0.96~1.11倍の範囲に、寄与割合の変化は0.002~0.06%の範囲に及んだとしている。
死亡率の季節性変化に応じて医療供給体制を変えていくことが必要
今回の研究結果は、気候変動により将来的に死亡率の季節性が変化した場合、医療供給体制もそれに応じて対応する必要が生じる可能性がある。
「特に、温帯地域・大陸性気候帯・乾燥気候帯においては、夏の暑熱による死亡者数のピークと冬の寒さによる死亡者数のピークの双方の医療需要に対応することが求められるようになる可能性を示唆している」と、研究グループは述べている。
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