発生率増加の希少がん、中枢神経系への進展や生存リスク因子の報告は限定的
東京医科歯科大学は1月31日、原発性硝子体網膜リンパ腫の中枢神経領域への進展に関与する臨床的因子を探索する研究を行い、予後に関わる臨床的因子を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科血液内科学分野の長尾俊景講師、吉藤康太助教、本村鷹多朗大学院生、眼科学分野の高瀬博病院教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Haematology」オンライン版に掲載されている。
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原発性硝子体網膜リンパ腫は、硝子体、網膜、視神経に病変が限局し、脳や髄膜などの中枢神経領域や全身に病変が認められない、まれな悪性腫瘍であり、近年、発生率が増加している。治療は、眼球内のがん細胞の根絶を目的として、局所療法としてメトトレキサートなど抗がん剤の眼内注射や放射線療法が行われる。また、その後の中枢神経領域への進展の予防を目的として、全身治療として大量メトトレキサート療法を中心とした化学療法が行われることもある。しかし、最適治療は定まっておらず、依然中枢神経領域への進展率は高い状態だ。また、原発性硝子体網膜リンパ腫はまれな疾患であることから、これまで中枢神経系への進展や生存に対するリスク因子に関する報告は限られていた。こうした背景から、原発性硝子体網膜リンパ腫患者の予後を改善するためには、中枢神経領域への進展に関与している因子を同定する必要があると考えられた。
2002~22年に診断・治療の患者54例対象、後方視的に臨床的因子を解析
今回、研究グループは、中枢神経領域への進展と予後に関連する臨床的な因子を同定するために、東京医科歯科大学病院で原発性硝子体網膜リンパ腫と診断し治療された患者を対象に、後方視的に解析を行った。対象は、東京医科歯科大学病院で2002~2022年までに原発性硝子体網膜リンパ腫と診断され、治療を受けた患者54例。追跡期間の中央値は28.5か月(範囲2-159)、リンパ腫診断時の年齢中央値は72.5歳(範囲43-84)。眼病変は片側が22例、両側が32例だった。全例にかすみ目、視力低下、飛蚊症といった眼科的症状が見られた。
全患者に対して、まずは、病変側に400μg/100μLのメトトレキサートを毎週、繰り返し眼内注射する治療を、病変が消失するまで行われた。患者54人のうち、24人は局所療法に続いて大量メトトレキサートの全身療法が行われた。大量メトトレキサートの全身投与を行うかどうかは、各患者の全身状態と併存疾患に基づいて決定された。大量メトトレキサート療法は、3.5mg/m2を隔週で計5サイクル投与。副作用などで治療継続困難な場合は、医師の判断で中止された。24人中20人(83.3%)の患者が5サイクルを完了し、残りの4人は途中で中止された。中止理由は、腎障害、悪心、肝障害、意識障害がそれぞれ1例ずつだった。
リスク因子は両側性病変/B細胞クローナリティー、進展抑制因子は大量メトトレキサート療法完遂
研究の結果、中枢神経領域への進展の5年累積発生率は78.0%だった。中枢神経領域への進展に関与する臨床的因子を探索したところ、診断時の両側性病変とフローサイトメトリー解析におけるB細胞クローナリティーの検出がリスク因子として同定された。また、予防的な大量メトトレキサート療法を完遂することは、中枢神経領域への進展を抑制する因子だった。全生存については、5年生存率は69.0%。大量メトトレキサート療法を完遂した患者は、残りの患者と比較して、有意に良好な転帰をたどった。
全例に大量メトトレキサート療法を実施すべきかなど、さらなる検討が必要
原発性硝子体網膜リンパ腫において、両側性病変、フローサイトメトリーでのB細胞のクローナリティーの検出、大量メトトレキサート療法の全身投与完遂という3つの独立した因子が中枢神経系への進展に関連する因子として同定された。ただし、全例に大量メトトレキサート療法を実施すべきか、また、さらに他の薬剤と組み合わせたより強い治療を行うべきかなど、さらなる検討が必要だという。今回のこれらの臨床的な因子の同定は、新たな予後予測モデルの構築に活用できると期待される。今後、これらの臨床的因子と合わせて網羅的な遺伝子解析による遺伝子異常の検討を行うことで、原発性硝子体網膜リンパ腫患者の予後の層別化が行われ、患者ごとの治療戦略の最適化につながる可能性があると考えられる、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース