新型コロナ5類移行、マスク着用率が集団免疫閾値へ及ぼす影響は考慮されず
東北大学は2月2日、理論疫学に基づいて、一時的な集団免疫が成り立つための感染率の閾値(感染ピークに達するまでの社会全体の感染率)に感染対策が及ぼす影響を、主にマスク着用効果に着目して評価した結果を発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の本堂毅准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「臨床環境医学」に掲載されている。
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日本では、新型コロナウイルス感染症の分類が2023年春に5類に変更されるとともに、政府がマスク着用の推奨を止め、マスク着用率は低下してきた。その背景の1つには、マスク着用の有無に関わらず、感染が一定規模になれば自然にピークアウトするという思いこみが観察されている。一方、新型コロナウイルス感染症の5類移行にあたっては、マスク着用率が集団免疫閾値へ及ぼす影響について考慮されなかった。例えば、新型コロナウイルス感染症に関するアドバイザリーボードに提出された西浦博らの「マスク着用の有効性に関する科学的知見」と題された資料でも言及されていない。
理論疫学に基づく数理モデルで、感染対策が集団免疫に及ぼす影響を評価
今回の研究では、理論疫学の一般性ある定理に基づいて、マスク着用が新型コロナウイルス感染症の(広義の)集団免疫に及ぼす影響を計算することにより、社会的感染対策の強度が感染症の集団免疫閾値に及ぼす影響を明らかにした。理論疫学では、基本再生産数と集団免疫閾値の関係が既に得られている。感染対策を緩和すれば基本再生産数が増えるため、この関係を用いて、感染対策の緩和と集団免疫閾値の関係を理論的に導くことが可能だ。マスクであれば、着用による感染抑制効果の疫学データを用いて、マスク着用状況と基本再生産数との関係を見積もることができる。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)等が公表している最新の疫学研究論文のデータなどを参照することで、マスク着用と基本再生産数の関係を導き、基本再生産数と集団免疫閾値の関係式に加えることにより、マスク着用率などの感染対策強度と、集団免疫閾値の関係を求めた。ここでは、パンデミックで一度感染した人は、その期間中は再感染しないと仮定した。
社会のマスク着用率減で感染は収束しにくく、脱マスク下では感染症に少なからず罹患
研究の結果、社会のマスク着用率が減るほど、(一時的)集団免疫閾値が増加。すなわち、感染は収束しにくくなることが明らかになった。また、社会全体でマスクが着用されている状況であれば感染を免れたはずの市民が、脱マスク下では感染症に少なからず罹患する(本人がマスク着用時も含む)こともわかった。なお、マスクを例としているが、換気対策も同様だとしている。
特定条件での結果を導くシミュレーション研究とは異なり、同研究は一般性のある理論的解析で結果を導いているため、多様な条件下でも(程度の差はあるものの)同様の結論を与えることが確認できる。そのため、上記の結果は、新型コロナと同様の性質を持つ将来のパンデミックスでも成り立つ普遍的な知見だ。
今後、総合的・合理的な感染対策の策定に期待
パンデミックスの感染対策は、できる限り経済と両立可能な持続可能性を持つことが重要だ。そのためには、今回の研究で示した理論疫学に基づく普遍的な知見に加えて、感染経路、費用便益分析(CBA)の経済理論などを総合して取り組む必要がある。今回の研究は、そのような総合的判断に不可欠な知見の1つを示すものであり、今後、総合的・合理的な感染対策が策定されることが期待される、と研究グループは述べている。
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