医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > アレルギー性鼻炎による鼻閉重症化の原因物質を同定、治療標的になる可能性-東大

アレルギー性鼻炎による鼻閉重症化の原因物質を同定、治療標的になる可能性-東大

読了時間:約 2分53秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年02月02日 AM09:20

ジホモγリノレン酸代謝物15-HETrが鼻閉に与える影響は?

東京大学は1月29日、アレルギー性鼻炎患者、疾患モデルマウスの鼻汁にジホモγリノレン酸の代謝物15-ヒドロキシエイコサトリエン酸(15-HETrE)を検出し、それが鼻づまり(鼻閉)の症状を引き起こすことを、マウスを使って明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科の放射線動物科学研究室の研究グループによるもの。研究成果は、「Allergology International」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

アレルギー性鼻炎は、花粉やハウスダストなどの抗原に曝露された際に、くしゃみ、鼻水、(鼻閉)などの症状を引き起こすアレルギー疾患。特に、鼻閉は慢性化し、患者のQOLを著しく低下させる。しかし、現在ある治療薬はくしゃみ、鼻水などの症状と比べて鼻閉に奏功しにくく、より良い治療法の開発が求められている。

患者の鼻粘膜が抗原に曝露されると、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどの脂質代謝物が免疫細胞から放出される。これらは、鼻粘膜の血管において血流量の増加や、血管壁のバリアの崩壊を起こし、鼻粘膜を肥厚させ、鼻閉を引き起こす。患者の鼻汁からは、さまざまな脂質代謝物が産生されることが報告されているが、その多くは、鼻閉に与える作用が明らかになっていない。研究グループは先行研究により、ジホモγリノレン酸の代謝物で15-HETrEという脂質を、アレルギー性鼻炎モデルマウスの鼻汁(鼻腔洗浄液)中に検出している。今回の研究では、15-HETrEが鼻閉に与える影響を評価した。

アレルギー性鼻炎患者+モデルマウスの鼻汁から15-HETrE検出

アレルギー性鼻炎の症状を持つ患者の鼻水に含まれる脂質の成分を、質量分析装置を用いて解析した。その結果、5人中4人から15-HETrEが検出された。続いて、卵白アルブミン抗原をマウスの腹腔内及び鼻腔内に複数回投与し、アレルギー性鼻炎モデルを作製。このマウスの鼻汁中に含まれる脂質の濃度を質量分析装置にて測定したところ、抗原刺激後には約0.064 ng/mLの15-HETrEが検出された。

15-HETrEが鼻閉に与える影響を評価するため、マウスの鼻腔に20µgの15-HETrEを投与したところ、腹式呼吸や横たわりの行動を引き起こした。これは鼻閉によって呼吸がしにくくなったためと考えられる。また、15-HETrEを投与したマウスの鼻腔を、CTスキャンで撮影したところ、投与10分後には鼻腔の容積が減少し、鼻閉が起こっていることが確認された。

マウスに15-HETrE投与、鼻粘膜血管を弛緩させ透過性を亢進

次に、15-HETrEがマウスの血管に与える影響を調べた。青色色素を静脈注射したマウスの鼻に20µgの15-HETrEを投与すると、血管からの色素漏出量が増加し、血管透過性が亢進した。20µgの15-HETrEを鼻腔内投与したマウスの鼻粘膜の血管を染色して、顕微鏡下で観察すると、15-HETrEは鼻粘膜の静脈洞を弛緩させることがわかった。また、生体ライブイメージングを用いた実験においても、1µgの15-HETrEの投与が、マウスの耳の血管を弛緩させる様子が観察された。

15-HETrEはDP・IP受容体刺激でK+チャネルを活性化、血管を弛緩

最後に、15-HETrEが血管の収縮に与える影響を、マウスの摘出大動脈を用いて調べた。0.1-3µMの15-HETrEの処置は、収縮した血管を弛緩させた。この弛緩反応は、Gsタンパク質共役型受容体(GsPCR)であるプロスタグランジンD2(DP)受容体やプロスタグランジンI2(IP)受容体の阻害剤によって、抑制された。同様に、カルシウム活性化K+チャネルや電位依存性K+チャネルの阻害剤によっても、15-HETrEがおこす血管の弛緩反応は抑制された。これらの結果から、15-HETrEはDPやIP受容体を刺激し、細胞内のcAMP-PKAシグナルを介した経路によってK+チャネルを活性化させ、血管を弛緩させることがわかった。

ジホモγリノレン酸の代謝物、古典的な脂質受容経路に関わり鼻閉悪化を示唆

今回の研究により、15-HETrEは、DPやIP受容体を介してアレルギー性鼻炎における鼻閉の症状を悪化させる、新しい脂質代謝物であることが証明された。DPは、鼻閉悪化因子として創薬対象になっている。今回の発見は、これまであまり注目されてこなかったジホモγリノレン酸の代謝物が、古典的な脂質の受容経路に関わり、鼻閉を悪化させることを示唆するものであり、より良い鼻閉の治療法開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか
  • AYA世代の乳がん特異的な生物学的特徴を明らかに-横浜市大ほか
  • 小児白血病、NPM1融合遺伝子による誘導機序と有効な阻害剤が判明-東大
  • 抗血栓薬内服患者の脳出血重症化リスク、3種の薬剤別に解明-国循
  • 膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか