大動脈弁狭窄症の有望な治療選択肢TAVI、予後不良群も一定数存在
琉球大学は1月5日、経カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:TAVI)が施術された患者群において、人工知能(AI)によるクラスター分析を用いることで、異なる予後を示す3つの患者タイプを特定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学講座の楠瀬賢也教授、筑波大学、名古屋市立大学、帝京大学、徳島大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal Open」に掲載されている。
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心臓には4つの弁があり、血液の流れを一方向に維持し逆流を防止している。これらの弁のうち左心室と大動脈を隔てているのが大動脈弁で、大動脈弁が何らかの原因で硬くなり血液が送り出しにくくなる症状を大動脈弁狭窄症と呼ぶ。超高齢化社会を背景に、大動脈弁狭窄症は全世界的に増加の一途をたどっている。重症大動脈弁狭窄症に対しては従来の内科治療(対症療法であり根治はできない)、外科治療(一時的に心臓を止めるなど身体への負担が大きい)に加え、近年では低侵襲をコンセプトとするTAVIが治療選択肢の一つとして登場した。現在、TAVIによる生命予後の改善が示されその適応も拡大している。同大では、2014年5月にTAVIハートチームを立ち上げ、2015年8月に沖縄県内で初めてTAVIを施行し、現在まで550以上の症例に対してTAVIを実施してきた。
一方で、TAVI後一定数の予後不良群が存在していることが明らかとなってきている。TAVIを受ける患者一人ひとりのリスクや予後を適切に評価し、治療計画を立てることが重要である。これまでいくつかの予後不良因子については報告があるが、多数指標を同時に扱うことは従来の解析手法では限界があった。
TAVIを受けた1,365人の患者データ、AIによるクラスター分析を実施
今回の研究では、AIを用いた新しいアプローチ(クラスター分析)により、患者の予後をより正確に予測することを目的とした。多施設研究(全国17施設)として、2015年1月から2019年3月に重症大動脈弁狭窄症でTAVIを受けた1,365人の患者データを収集し、クラスター分析を用いて異なる予後を持つ患者グループを識別した。分析には年齢、性別、手術のリスクを表すSTSスコア、心エコー検査データなどが含まれ、これにより患者の特徴と予後の関連を詳細に調査した。
有意に臨床アウトカムの異なる3クラスター特定、高リスク患者群も明らかに
分析の結果、従来の知見では明らかとならなかった3つの異なるクラスターを特定した。クラスター1は高齢で大動脈弁圧較差が高く、左室肥大と関連し、クラスター2は左室駆出率が保持され、大動脈弁面積が大きく、血圧が高い患者群だった。クラスター3は頻脈、低流量/低勾配AS、左心および右心機能障害を呈する患者群だった。追跡期間中にクラスター間で有意な臨床アウトカムの違いが見られ、特にクラスター3は予後が悪く、高リスクの患者群であることが示された。AIによるこれらの発見により、TAVI後の患者の予後評価に新しい視点が提供された。
TAVI治療後の患者の予後をより正確に予測することで、個々の患者に最適な治療計画を立てることが可能になり、心臓病治療の質の向上に貢献する。特に、高齢者や従来の手術が困難な患者にとって、このような個別化されたアプローチは重要である。「将来的にはこの研究が心臓血管疾患の治療法の改善につながり、患者の生活の質の向上に寄与することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・琉球大学 研究成果