時計遺伝子の機能と神経障害性疼痛アロディニアの関連は?
九州大学は1月29日、概日時計の変調が、神経損傷によって生じる慢性的な痛み(神経障害性疼痛)を緩和する仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の大戸茂弘教授、小柳悟教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS Nexus」にオンライン掲載されている。
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多くの生物は、地球の自転に伴う外部環境の周期的な変化に対応するため、自律的にリズムを発振する機能(概日時計)を備えている。概日時計の機能は「時計遺伝子」によって制御され、睡眠・覚醒のサイクルやホルモン分泌などに24時間周期のリズムが生じるが、このような仕組みは病気の発症や症状にも時刻による変動を引き起こす。
一方、神経障害性疼痛は末梢神経のダメージで発症する慢性的な痛みで、衣服が肌に触れるような軽い触刺激でも激しい痛みを引き起こす「アロディニア」を特徴とする。これまでに同研究グループは、概日時計によって神経障害性疼痛の症状が時刻によって変動することを見出していた。しかし、時計遺伝子の機能とアロディニアとの関連性は明らかになっていなかった。
時計遺伝子機能不全マウス、末梢神経ダメージでも神経障害性疼痛発症せず
今回、研究グループは概日時計の働きが慢性的に変調したマウス(時計遺伝子の機能不全マウス)では、末梢神経がダメージを受けても神経障害性疼痛が発症しないことを見出した。
野生型マウスの脊髄では、時計遺伝子の働きによってアドレナリン受容体を介したエンドカンナビノイドの産生が低く抑えられており、末梢神経が損傷を受けるとアロディニアが発症。一方、時計遺伝子の機能不全マウスは、アドレナリン受容体に対する抑制が働かず、エンドカンナビノイドの産生が増加した。エンドカンナビノイドは、生体内で産生されるカンナビノイド受容体のリガンドの総称であり、主要なものとしてanandamideと2-arachidonoylglycerol(2-AG)がある。
概日時計の変調で産生増加のエンドカンナビノイド、アロディニア発症を抑制
産生されたエンドカンナビノイドはカンナビノイド受容体を介して、末梢神経の損傷によるアロディニアの発症を抑制することを確認した。すなわち、概日時計の変調によって産生が増加したエンドカンナビノイドが、末梢神経の損傷によるアロディニアの発症を抑制していることを突き止めた。
概日時計で制御の神経障害性疼痛緩和の仕組み、新薬創製などに期待
これらの知見は、生体内に概日時計によって制御される神経障害性疼痛を緩和する仕組みが備わっていることを示しており、新しい治療標的の発見や新薬の創製などにつながることが期待される、と研究グループは述べている。
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