ヒトの主観的入眠潜時の特性と体温・放熱、睡眠構造との関連を検討
埼玉県立大学は1月26日、不眠症の基盤データとして健常成人を対象に入眠過程における主観的入眠潜時(本人が自覚する寝付くまでの時間)と体温・放熱、睡眠構造との関連性を検討した結果を発表した。この研究は、同大大学院修士研究員の飯島竜星氏と、有竹清夏教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Sleep Research」に掲載されている。
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ヒトは睡眠中にも時間経過を認知する時間認知機能(Time Estimation Ability:TEA)を備えており、例えば一晩の睡眠時間が7時間であれば、本人の自覚する睡眠時間もほぼ7時間と、ある程度一致している。
しかし、一部の不眠症患者では、主観的睡眠評価と客観的睡眠評価の乖離を呈する睡眠状態誤認に陥っている。これは実際の客観的な睡眠状態と自覚する睡眠状態にズレが生じるものであり、睡眠時のTEAに異常があると考えられている。睡眠状態誤認患者では、その乖離の特徴として睡眠時間を著しく過小評価するだけでなく、入眠潜時を過大評価することが報告されているが、この主観的な入眠潜時と入眠との関わりが深い体温の変化、さらには放熱との関連性を見た研究はほとんどない。この点が明らかになれば、不眠症の病態生理メカニズムの理解と今後の介入研究につながると考えられる。そこで研究グループは、基盤データとして健常成人を対象に、入眠過程における主観的入眠潜時と睡眠構造、体温・放熱との関連性を検討した。
入眠潜時が短い人ほど、消灯後の放熱量に比べて消灯前の放熱量「高」
研究では、健常若年成人28人(男性7人、女性21人、21.5±0.5歳)を対象とした。皮膚温と鼓膜温を、センサを用いて連続記録し、遠位皮膚温(手足)と近位皮膚温(体幹)の温度差から放熱の程度を示し、かつ入眠指標であるDPG(Distal-Proximal skin-temperature Gradient)を算出した。昼間に60分間の睡眠ポリグラフ記録を行い、総睡眠時間、各睡眠段階出現時間、睡眠効率などの睡眠構造およびパワースペクトル解析による各周波数成分(δ〜β帯域)のパワー値を算出した。睡眠前後にはアンケートを実施し、主観的入眠潜時、睡眠深度、熟睡感などの主観的評価を得た。主観的入眠潜時と睡眠構造、各周波数成分のパワー値、DPG、主観的評価との関連を検討した。なお、同研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て実施した。
平均客観的入眠潜時は7.6分、平均主観的入眠潜時は13.7分と、被験者の多くが入眠潜時を過大評価していた。主観的入眠潜時はStageN2(安定した睡眠)出現時間、入眠期のSWA(slow wave activity:遅い波の成分)と有意な負の相関を示した(それぞれp<0.05)。また、主観的入眠潜時が短いほど消灯前のDPGが消灯後のDPGに比べ、有意に高かった(p<0.001)。さらに、主観的入眠潜時が短いほど睡眠の深さや熟睡感に対する主観的評価が高かった。ステップワイズ回帰分析の結果、主観的入眠潜時に最も影響を与える要因は消灯前後のDPGの差であり、次にSatgeN2出現時間だった。これらのことから、健常成人における寝付いたと思う感覚には、特定の睡眠段階だけでなく、入眠前からの放熱が関連している可能性が考えられた。
不眠症の病態機序理解と治療への貢献に期待
今回の回帰分析の結果から、主観的入眠潜時に有意に影響を与える要因として、消灯前後の放熱変化量の多さとStageN2(安定した睡眠)が抽出された。
これまでの研究は主観的睡眠時間に影響する因子に着目したものがほとんどであり、同研究は主観的入眠潜時の特性、またその関連因子、とりわけ放熱に着目した点が新しい点だと言える。「今後は睡眠状態誤認などの不眠症患者を対象にした検討、夜間睡眠での検討などを行うことで、不眠症の病態機序理解と治療への貢献が期待される」と、研究グループは述べている。
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