欧米GLでは古いエビデンスに基づき「推奨」、日本では意見分かれる
横浜市立大学は1月26日、徳洲会メディカルデータベースを用い、内視鏡止血を行った食道静脈瘤破裂患者に対する予防的抗菌薬投与の有効性を検証した結果、予防的抗菌薬投与の明確な有効性は認められなかったことがわかったと発表した。この研究は、同大大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の市田親正医師(博士前期課程2年、湘南鎌倉総合病院消化器病センター部長)、清水沙友里講師(同専攻)、後藤匡啓客員講師(TXP Medical株式会社)らの研究グループによるもの。研究成果は、「World Journal of Gastroenterology」に掲載されている。
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食道静脈瘤破裂は、肝硬変を背景に持つ重篤な消化管出血の一つである。現在、欧米の診療ガイドラインでは、内視鏡的止血術を行う際の予防的抗菌薬投与が、感染症、再出血、死亡率の低下につながるとして、全ての患者への投与が高いエビデンスレベルで推奨されている。しかし、これらのガイドラインは1990年から2000年初頭の比較的古いランダム化比較試験に基づいており、現代医療の進歩を反映していない可能性がある。特に、肝硬変治療や内視鏡止血デバイス・技術の進展、多剤耐性菌の問題を考慮すると、予防的抗菌薬投与の有効性ついては再検討が必要と考えられた。一方、日本の診療ガイドラインでは、食道静脈瘤破裂患者への予防的抗菌薬投与に対する明確な推奨はされておらず、意見が分かれている。この状況を背景に、救急診療に注力する徳洲会のデータベースを用いて、近年の医療環境における予防的抗菌薬投与の有効性を検証した。
980人を対象に解析した結果、予防的投与の優位性を認めず
研究グループは、徳洲会メディカルデータベース(全国70病院を有する日本最大の私立病院グループ)を用い、46施設、13年間のデータから、食道静脈瘤破裂に対して内視鏡止血術を行った980人の患者データを抽出した。同DBは診断群分類(Diagnosis Procedure Combination,DPC)データによる患者基礎情報、採血結果・バイタルサインに加え、電子カルテに遡ることでさらに詳細なデータが得ることが可能なデータベースとなっている。重篤な患者(例えば、人工呼吸器を使用している患者)や、明らかに抗菌薬投与が必要な感染症が疑われる患者(バイタルサイン・血液培養取得情報に基づく)は、この分析から適切に除外した。
抗菌薬投与が行われた群(予防投与群)と行われなかった群(非予防投与群)に分け、6週間の死亡、4週間の特発性細菌性腹膜炎、4週間の再出血と、これらの3つの複合アウトカムを比較した。この比較のため、患者の共変量に関する欠測値は多重代入法を用いて補完し、その後、逆確率重み付け法を用いてアウトカムの分析を行った。その結果、予防投与群の優位性は確認されなかった。
世界的な診療ガイドラインの見直しが必要
この結果は、欧米の診療ガイドラインにおける予防的抗菌薬投与の推奨について再考を促すものであるという。特に、肝硬変治療や内視鏡止血技術の進歩を踏まえた現代の医療環境において、これらのガイドラインの適切性についてはさらなる検証が必要であると考えられるが、「今後、ランダム化比較試験を含む、世界各国でのより包括的な研究が期待される」と、研究グループは述べている。
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