ハイリスク者の健診後医療機関受療タイミングと循環器疾患の入院・全死亡リスクを検討
国立国際医療研究センター(NCGM)は1月26日、全国健康保険協会(協会けんぽ)とともに、2020年度より加入者約4,000万人分の匿名化された健診・レセプトデータを分析できる環境を外部有識者に提供する委託研究事業を開始したと発表した。この研究は、NCGM国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センター 磯博康センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Atherosclerosis」にオンライン掲載されている。
勤労者およびその家族が、いかに重篤な疾患に陥ることなく仕事を続けることができるかは、個人のみならず企業にとっても重要な課題だ。協会けんぽにおいては、平成30年度からインセンティブ制度を導入し、健診や特定保健指導の実施率の向上、特定保健指導対象者の減少および後発医薬品使用の推進とともに、医療機関への受診勧奨を受けた要治療者の医療機関受診率の向上に努め、ハイリスク者に対する重篤な疾患発症の予防に尽力している。
研究グループは今回、健診事業および健診後の受診勧奨事業に着目し、健診所見上の重症化ハイリスク者の受療行動が、その後の循環器疾患による入院や全死亡のリスクを低減するかについて、疫学的に明らかにすることを目的として研究を行った。
重症化ハイリスク者を定義し、医療機関での受療の有無・受療のタイミングを調査
研究では、重症化ハイリスク者41万2,059人(男女35~74歳)のコホートを構築。さらに「1)収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上、2)空腹時血糖130mg/dL以上またはHbA1c7.0%以上、3)LDL-コレステロール180mg/dL以上(男性のみ)、または4)尿タンパク2+以上の者で、医療機関で通院治療中ではなく、かつ心疾患、脳卒中、腎不全の既往がない者」という基準のいずれかに該当する者を、ハイリスク者と定義した。
医療機関の受療はICD-10コードと診療行為コードを用いて判定。ハイリスク者は健診後の医療機関での受療の有無・受療のタイミングによって「受療無し」「早期受療(3か月以内)」「中期受療(4〜6か月以内)」「後期受療(7〜12か月以内)」の4群に分けた。主要評価項目は、脳卒中(ICD10:I60-I69)、虚血性心疾患(ICD10:I20-I25)、心不全(ICD10:I50)による初回入院または全死亡のアウトカムとした。さらにCox比例ハザード回帰モデルを用いて、健診後の受療時期と、脳卒中、虚血性心疾患、心不全による入院および全死亡リスクとの関連を検討。加えて、性別、年齢、危険因子数、企業規模、地域、業種、保健指導実施状況による層別解析を行った。
早期受療がエンドポイントのリスクの有意な低下と関連、脳卒中と心不全の入院で顕著
その結果、中央値4.3年の追跡期間中に、脳卒中・虚血性心疾患・心不全による入院または全死亡のアウトカムを有する合計1万5,860例を同定した。健診後に受療無し群と比較して、循環器疾患による初回入院または全死亡(コンポジットアウトカム)の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は、早期・中期・後期受療群でそれぞれ0.78(0.74,0.81)、0.84(0.78,0.89)、0.94(0.89,1.00)だった。
個別のエンドポイントに関する分析では、早期受療は全てのエンドポイントのリスクの有意な低下と関連しており、リスクの低下は脳卒中と心不全による入院でより大きい結果だった。さらに、性別、年齢、危険因子数、企業規模、地域、業種、保健指導実施状況別にみても同様の関連を認めたという。
重症化ハイリスク者の早期受療を促すことが重要
今回の研究結果により、重症化ハイリスク者に対しては、健診後のより早い段階での医療機関受療が循環器疾患の入院や全死亡リスクの低下に寄与する可能性が示された。
「本研究は観察研究であるものの、生活習慣病の重症化予防を目的とした医療機関への受療促進の効果を示唆する結果として、循環器疾患による入院、並びに全死亡のリスクの低下との関連が認められ、生活習慣病予防政策において、重症化ハイリスク者に対してより早期に医療機関の受療を促すことの重要性が支持された」と、研究グループは述べている。
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・国立国際医療研究センター プレスリリース