TRPV1阻害薬の開発進まず、新たなコンセプトに基づく鎮痛薬開発が必要
昭和大学は1月25日、炎症時において、リン酸化されるカプサイシン受容体TRPV1が、通常では痛みを引き起こさないような感覚刺激によってわずかに活性化すると、その下流においてアノクタミン1を強力に活性化させることを証明したと発表した。この研究は、同大医学部生理学講座生体制御学部門の高山靖規講師、自然科学研究機構 生理学研究所細胞生理研究部門の富永真琴教授らの研究グループによるもの。研究成果は、日本疼痛学会誌「Pain Research」に掲載されている。
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唐辛子に含まれる主な辛味成分であるカプサイシンは皮膚の感覚神経に発現するTRPV1(カルシウム透過性を有するイオンチャネル)を活性化させる。そのため、辛いものを食べた時に感じる「焼けるような痛み」(灼熱痛)の分子メカニズムとしてTRPV1が主に注目されてきた。灼熱痛は炎症などの病的な状態でも感じるため、これまで多くの製薬会社などが鎮痛薬としてTRPV1阻害薬の開発を進めていたが、副作用の問題があり臨床使用されているものはない。そのため、新しいコンセプトに基づく新規鎮痛薬の開発が重要だ。
細胞内のカルシウムによって活性化するクロライドチャネルであるアノクタミン1もTRPV1を持つ感覚神経に発現しており、その活性化は灼熱痛を強めることが、これまでの研究で明らかになっている。活性化したTRPV1を介して細胞内に流入するカルシウムによってアノクタミン1が活性化されると神経興奮が高まるため、辛いものを食べた時に感じる灼熱痛のような急性疼痛が増悪するが、炎症性疼痛などにおけるこの二分子間の相互作用は不明だった。
TRPV1とアノクタミン1の相互作用を理学的・生化学的に解析
炎症においてTRPV1は細胞内に存在するプロテインキナーゼC(PKC)というタンパク質によってリン酸化を受ける。リン酸化TRPV1は通常よりも活性化しやすくなっており、これが痛覚過敏やアロディニアの原因と考えられている。そこで今回、PMAという化合物を使ってTRPV1を人工的にリン酸化し、この炎症類似条件においてTRPV1とアノクタミン1の相互作用がどのように変化するのか電気生理学的・生化学的に解析した。
TRPV1を弱く活性化しただけでもアノクタミン1は強く活性化と判明
その結果、通常ではTRPV1をほとんど活性化しない濃度のカプサイシンや、37℃という深部体温程度の熱刺激によってTRPV1は弱く活性化された。ところが、この弱いTRPV1活性化を介してもなお、アノクタミン1は強く活性化することが判明した。この際、リン酸化TRPV1とアノクタミン1同士の直接的なタンパク質間結合は、リン酸化させていないTRPV1の時と比べて変化がみられなかった。これらの結果は、TRPV1とアノクタミン1の相互作用においては、リン酸化TRPV1の活性化だけに依存してアノクタミン1が活性化することを示している。
TRPV1とアノクタミン1の相互作用を「選択的に阻害」することが新たな標的に
研究から、炎症性疼痛を抑えるためには、TRPV1もしくはアノクタミン1を阻害することが有効である可能性が示された。しかし、TRPV1阻害剤の開発は滞っており、アノクタミン1は痛み以外にも涙液分泌や皮膚再生の促進に関与することが知られている。「今後は、TRPV1とアノクタミン1の相互作用を選択的に阻害することが新しい鎮痛薬のコンセプトになることにつながると期待される」と、研究グループは述べている。
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・昭和大学 プレスリリース