肥満・メタボリックシンドローム治療の標的として注目される褐色脂肪細胞
岩手医科大学は1月24日、褐色脂肪細胞において熱産生に関与する脱共役タンパク質1(UCP1)に着目し、ハイスループット法によるスクリーニングにて、UCP1を活性化させる化合物を同定し、その作用機序を解明することに成功したと発表した。この研究は、同大内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野の小野寺謙氏、長谷川豊特任准教授、石垣泰教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Obesity」に掲載されている。
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全世界的に肥満人口は激増しており大きな社会問題となっているが、画期的な治療法がないのが現状である。褐色脂肪細胞はUCP1を強く発現し、熱エネルギーを産生することができる脂肪細胞で、この脂肪細胞の数を増やし活性化することができれば、基礎代謝が亢進し、体内の糖質や脂質が消費されることによって、肥満およびメタボリックシンドロームの発症や病態の悪化を軽減できると考えられる。褐色脂肪細胞は、想定以上に全身の基礎代謝を規定していることがわかってきているため、その活性化は肥満・メタボリックシンドローム治療の有望なターゲットとして期待されている。
Ucp1遺伝子発現亢進させ、細胞毒性少ない化合物の同定に成功
今回の研究ではUcp1遺伝子Exon領域にルシフェラーゼを組み込んだ脂肪細胞を利用し、ハイスループット法による化合物スクリーニングを進めた。化合物ライブラリーは、東京大学創薬機構の化合物ライブラリー(Core Library)を利用し、コントロールとしてロシグリタゾンを使用した。
4,800種の化合物から一次・二次スクリーニングを経て、6種をヒット化合物として選出した。さらに実際の遺伝子発現の解析を行い、Ucp1遺伝子の発現を亢進させる4種の化合物を同定した。Ucp1遺伝子の発現を最も亢進させた化合物の解析から、比較的高濃度でも細胞毒性が少ないことを確認した。
化合物投与した肥満・糖尿病マウス、基礎代謝亢進し体重減少/耐糖能改善/脂肪肝軽減
肥満・糖尿病モデルマウスにこの化合物を投与すると、コントロールマウス群に較べて、体重の有意な減少が認められ、耐糖能が改善し、インスリン感受性が亢進していた。さらに肝臓における脂肪の含量が少なく、脂肪肝が軽減していた。また、化合物を投与したマウスは、コントロールマウスと較べて、酸素消費量が高く、基礎代謝が亢進していることが確認できた。
食事を取っても肥満になりにくい効果が期待できる
褐色脂肪細胞におけるUCP1の活性化に着目し、スクリーニングにて新規抗肥満薬候補を同定し、その作用機序を解明することに成功した。「今回同定した化合物は、脂肪細胞の熱産生を活性化し、全身の基礎代謝を上げる効果がある。これまでの肥満症治療薬とは異なり、食事を取っても肥満しにくい体質になる有望な肥満治療薬候補として期待される」と、研究グループは述べている。
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